宮崎夏次系は「SF」をどう定義する? 名作文学をもじった新作『もじるひと』インタビュー

宮崎夏次系『もじるひと』インタビュー
『もじるひと』(宮崎夏次系/早川書房)

 『なくてもよくて絶え間なくひかる』や『あなたはブンちゃんの恋』など、時にシュールなユーモアを交え、人が持つやさしさや残酷さ、切なさや滑稽さまで、細やかな感情の揺らぎを描いてきた漫画家・宮崎夏次系。

 古今東西の名作文学を「もじった」短編31本を収録した最新作『もじるひと』(早川書房刊)でも、その筆致は健在だ。文学作品を大胆に取り込み、可笑しみと不穏さ、親密さと切実さが入り混じる、宮崎夏次系ワールドが広がっている。

 King Gnu・井口理に羊文学・塩塚モエカ、『ピンポン』『鉄コン筋クリート』の松本大洋にフリーアナウンサーの宇垣美里まで、多くのアーティスト・文化人から支持を集める稀代の漫画家に話を聞いた。(皆川潤喜)

連載4年半を振り返って

ーーエピソードは、一部を除き「SFマガジン」での連載約4年半分が収録されています。連載を振り返ってみていかがですか。

宮崎夏次系(以下、宮崎):4年半分になるんですね。毎回原稿を締め切り日ぎりぎりまでお待ちいただき、連載を支えてくださった担当編集者さんに、ありがとうございますという気持ちです。8pのショートショートは、限られた枚数の中で色々と描くのがたのしかったです。

ーー単行本発売から一月ほど経ちましたが、読者からの反響はいかがですか。

宮崎:「何これ笑」という感じのご感想がすごくすごくうれしかったです。私も何だろうなぁこれ……と思って楽しく描いておりました。

 書店さんで『もじるひと』を手に取ってもらったり、試し読みなどなど電車待ちの時間に見かけて、ちょっと笑ってもらえていたら、描いてよかったと思います。

ーー小説のタイトルをもじった短編が収録されています。連載にあたりほかにもなにかルールや縛りは設けていましたか。

宮崎:『もじるひと』の本体表紙漫画にもひっそり描きましたが、私はもじりもとの古典小説がほとんど分かりません。なのでもじりもとの小説をそのつど調べて描くのですが、やっぱりその小説の芯の部分は自分には分からないんだろうと、中途半端に消化しないようにと、うまく言えませんが、もじり元の古典小説と距離を置くことが精いっぱい作品と作家さんへの誠意で、ルールといえるものがあったらそれかなと……。

ーー各話タイトル(もじる作品)が決まった後、物語はどのように作られていくことが多かったですか。

宮崎:タイトルは、ネームが終わった後に考えることにして、普段起こった変なことをメモしているノートから、ひとつ選んで、それがキャラクターの気持ちにつながっていくことが多い気がします。自分の書いたメモ、字が乱暴すぎて読めなくなってたりもしますが……。

ーー収録作の中でご自身の印象に残っているエピソードや、「今描くなら違う内容にするな」というエピソードはありますか。

宮崎:むずかしいですね……その時できる範囲のマックスのものだったかと思いますが、「飛ぶタンパク質」というお話にトンカツの衣の中に豚肉がタイムスリップするシーンがあるのですが、エビフライでもよかったのではと少し思います。

ーー書籍にもう1話追加できるとしたらどの小説をもじりたいですか。

宮崎:日本昔話の「おむすびころりん」などでしょうか。おむすびが自分で転がりにいっているような、人間の心に入りこむ恐ろしいものに見えますよね。

 どういう漫画になるかな……悪いおむすび、よさそうです。

広くて大きい「SF」という概念

ーー巻末の「星のお兄さん」は収録作の中で一番と言っていいほど爽やかで前向きな読後感でした。基本的に「SFマガジン」掲載順に収録されていますが、単行本の構成も考えながら執筆されていったのでしょうか。

宮崎:「星のお兄さん」は以前描いた読切をトレースしたものです。その読切はアイドルになりたいけど人前で声が出ない女の子が主人公で、元気出してほしいと描いたものでした。『もじるひと』の最終回は、また走りだすような絵で終えたかった気持ちもあります。

ーー(早川書房刊の)前作『と、ある日のすごくふしぎ』と『もじるひと』を読み比べると、前者は世界観に、後者はキャラクターに重心を置いて描いているように感じました。

宮崎:前作も読んでいただきどうもありがとうございます。ずっとキャラクターを描くのが苦手だったので、キャラクターが前に出てきたように言っていただけて、とてもうれしいです。

ーーおまけ漫画でも触れられていますが、カバーには『と、ある日のすごくふしぎ』カバーの2人が登場しています。本書カバーのコンセプトやテーマはなんでしょうか。

宮崎:宮沢賢治作品に触れたお話が3つほど入っているので、どこか「銀河鉄道の夜」のような雰囲気になりました。

 今回のカバーの犬さんが被っている帽子も、ボーラーハットっていうんですか、宮沢賢治さんが被っていそうなものにしました。

ーー何をもって「SF」としていますか。ご自身の中での定義づけはされていますか。

宮崎:今回のもじりもとの古典小説に対する気持ちと似ています。SFという大きな渦に飛び込む方法は分からないけども、せめて生活の中で感じる小さな出来事、綿毛がふわふわ飛んでいても太陽の光で本体は見えなくて地面に影だけが行進しているように見えているとか、変なことに遭遇すると思うのですが、そういうことを自分の中のSFカテゴリーにいれています。

「時々話しかけてくれるルンバがいてくれたら」

ーー特に近作は、読みやすさも意識して漫画を描かれているように感じました。漫画を描く際にテクニカルな部分で意識されていることはなんでしょうか。

宮崎:最近気をつけていることはあって、キャラクターにセリフではっきり状況を言ってもらうようになりました。「これどういうこと?」と途中で目がひっかかると、読んでる方に悪いなというか。できていないことも多いのですが……。

ーー先生の作品には「孤独」「寂しさ」といった要素が内包されているかと思います。ここ近年SNSの台頭・AIの発達などで人と人との距離感が変わったと言われていますが、先生から見ても変化は感じますか。

宮崎:家の中でひとりで居るのと、人がいっぱいの街の中でひとりで居るのだったら、どっちが寂しいかな、と悩む引きこもりの犬が主人公の絵本を描いたときに、お話の中盤でやっぱり出会い系サイトに電話をかける展開になったと思い出しました。あの一人ぼっちの犬の話し相手にAIが居てくれたとしたら、寂しさのキャッチボールをやってそのうちボールがどこかに飛んでいったりしたらいいですね。

ーー昨今はデジタル・AI環境の進化も目覚ましいです。漫画に限らず、先生が一度使ってみたいと思うツールやデバイスはありますか。

宮崎:車の自動運転(自分の運転より信頼できる)か、時々話しかけてくれるルンバがいてくれたら和みそうです。

ーー松本大洋さんや井口理さんが愛読されていることを公言されたり、作品にやくしまるえつこさんの声がついたり、多くの方とご縁が生まれていますが、今後対談やコラボしてみたい方はいますか。

宮崎:作品をつくってくれて、同じ時代に居てくれてありがとうございます、という方がたくさんですね。

 以前初めて椎名うみ先生とお話したときも、私は汗びっしょりで幽体離脱手前でしたし好きな作家さんを前にすると慌ててしまいますね。ひっそりと大好きなアーティストや作品を読んで生活していこうと思っています。

ーー読者の方にメッセージをお願いします。

宮崎:8p読み切りの連続で、途中で目を疲れさせてしまいましたら、申し訳ありません。「SFマガジン」で掲載していただいた4年半がまとまった一冊です。ゆっくりお手元に置いてくださると、とてもうれしいです。

■書誌情報『もじるひと』
著者:宮崎夏次系
価格:990円(税込)
発売日:2026年2月18日
出版社:早川書房

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