山下智久の存在ときらめきに不可能はないーー『映画 正直不動産』で魅せた、みずみずしい美しさ

物語を一本の線で繋ぐ公園のベンチ
2022年放送のドラマ『正直不動産』(NHK)第1話序盤から中盤にかけ、主人公・永瀬財地(山下智久)が随分ぺちゃくちゃ、かしましい口調で喋り倒していた。それがどういうわけか、シリーズ初の劇場版である『映画 正直不動産』(2026)での永瀬は大分落ち着いた印象がある。それだけ主人公が精神的に成長したということだが、ドラマ第1話と劇場版終盤のある場面が呼応していることは見逃せない。
物語の発端は、「ライヤー永瀬」という異名を取る悪徳不動産屋だった永瀬が、アパート建設予定地内のほこらを力ずくで壊したことをきっかけに、嘘がつけなくなったことだった。嘘をつこうとすると、ほこらに封じ込められていた力が突風を吹かせて逆に本音を吐かせるようになる。営業成績トップの座をキープするため、あくせく働き過ぎ、心が疲弊しただけなのか……。永瀬は最初そう思う。
そこで心療内科を受診してみるが、原因はわからない。嘘営業ができない永瀬の成績は下がり、タワーマンションの家賃も払えない。どうしたものかと心の中であれやこれやかしましく考える永瀬は、公園のベンチで途方に暮れた……。さて、このベンチ(原作第1巻では井の頭公園に設定されているが、ロケ地は洗足池公園)、劇場版終盤でも重要な役割を果たし、シリーズ全体の物語を一本の線で繋いでいる。
実写化映画出演が多かった2010年代
本作は実写化映画というくくりになるが、考えてみると2010年代の山下は実写化映画出演が多かった。シーズン2と3が月9枠で放送されたドラマ「コード・ブルー -ドクターヘリ緊急救命-」シリーズ(2008~2017)の劇場版(フジテレビ系、2018)と海外進出作である中国映画『サイバー・ミッション』(2019)を除いて、『あしたのジョー』(2011)、『近キョリ恋愛』(2014)、『テラフォーマーズ』(2016)の3作品がある。主演映画『あしたのジョー』は、『ピンポン』(2002)で実写化映画の礎を築いた曽利文彦監督作であり、山下もまた漫画史上の伝説的キャラクター矢吹丈役を生身の存在として画面上に浮き上がらせた。
2010年代の日本映画界は空前のラブコメ映画ブームにわいていたが、みきもと凛による原作漫画の性格設定を入れ替えた『近キョリ恋愛』は、山下にツンデレ英語教師という最強のラブコメツール(役柄)を授け、壁ドンなどのキュン要素が最大瞬間風速に達した。一方で、カメラワークと阿吽の呼吸の演技は生身の俳優にしか醸せない魅力を画面上に漲らせていた。
こうした実写化映画出演の呼び水となったのが、2008年公開の『映画 クロサギ』だ。2006年放送ドラマ『クロサギ』(TBS系)の劇場版であり、『正直不動産』は同作以来の劇場版主演作品ということになる。原作漫画の原案者は両作ともに夏原武であり、ドラマ放送から20年を経た節目を感じさせる。さらに『クロサギ』第1話冒頭が上裸に赤いサスペンダー姿の主人公・黒崎が野原に寝そべっていたのに対して、『正直不動産』第1話冒頭もタワーマンションの一室で女性をくどく永瀬が上裸だったことが作品間をゆるやかに結びつけている。
映画と漫画を繋ぐハーモニー
宿命のライバル力石徹(伊勢谷友介)に打ちのめされ、床に顔をこすりつける苦悶の表情が印象的だった『あしたのジョー』にしろ、実写化映画での山下は必ずフィジカルなきらめきを見せてくれる。それは、映画と漫画、二つのメディアを繋ぐハーモニーだ。仮に実写化が難しい原作漫画であったとしても、山下智久の存在ときらめきに不可能はない。
『映画 正直不動産』冒頭、山下演じる永瀬財地はテキサスの荒野にいた。孤立無援の状況的に、ドラマ第1話のベンチの場面以上に途方に暮れるしかない。原作のベンチの場面では後輩である月下咲良が心配して探しにきてくれるが、この劇場版では光友銀行のニューヨーク支店に勤務する恋人の榎本美波(泉里香)が助けにきてくれる。渇水の永瀬は彼女がくれたペットボトルの水をぐびぐび飲んだ。その時、左口角から顎にかけて滴る水の筋がキラッ……。
荒野を潤すには十分であるかのような、このきらめき。生身の俳優が演じる実写ならではのみずみずしい美しさ。亜樹直による原作漫画を日仏米共同製作で配信ドラマ化した、山下主演作『神の雫/Drops of God』(Apple TV +、2023)のタイトル(とそのテーマ性)にちなめば、これこそ、神の雫にふさわしい液体性なのかもしれない。いずれにせよ、テキサスから始まる本作は終盤になって山下を何とかベンチの場面までたどり着かせる。そこには永瀬が不思議と心を通わせる和菓子職人・石田努(山﨑努)がいた。彼は言う。「時々こうして風を感じる時間も取れ」。かしましい音はない。永瀬はホッと一息つく。『クロサギ』で初共演以来、師弟関係にある山下智久と山崎努による静寂の名場面が心地よい余韻だ。

























