ザ・ぼんち 里見まさとが振り返る、波乱万丈の漫才人生「底があるということは上もあるやろう」


73歳にして現役の漫才師として舞台に立ち続け、昨年は芸歴16年以上の漫才師による大会『THE SECOND~漫才トーナメント~2025』(フジテレビ)のファイナリストとなったザ・ぼんちの里見まさとによる新刊『漫才の一滴 笑吉が教えてくれた「念、縁、運」』(ヨシモトブックス刊)が2026年1月30日に発売される。
本著は、里見が人生の局面に立つたびに現れたという不思議な存在である三毛猫の笑吉によって、叱咤激励された日々、漫才ブームから一躍人気者となったザ・ぼんちの解散、亀山房代との漫才コンビ結成、50歳にしてザ・ぼんち再結成と、芸人として芸、漫才に向き合い続けた日々が赤裸々に綴られた1冊だ。
今回は里見に執筆のきっかけや『THE SECOND』決勝、どん底の経験など、深く話を聞いた。
忙しいことはありがたいことなんです

――本著の執筆は、制作にも関わっているゆうゆう企画のみなさんとの再会がきっかけとなったそうですね。
里見まさと(以下、里見):昨年の桜の季節でした。漫才ブーム当時からザ・ぼんちを応援してくれている方々と久しぶりに京都で会うことになり。そこで今回書いている三毛猫の笑吉の話をしたことで、おもしろがってもらい、本にまとめてみることになりました。これも不思議な縁ですね。
あれは13年前やから、還暦の時になるんかな。今までのことを忘れずに残しておこうと、『おおきに漫才!―人生は何歳からでもやり直せる』(ヨシモトブックス)という本を書いたんです。前作は僕の60歳までの歩みをまとめました。今作はその後とこれからの5年、10年の目標を考えながら書いてみました。昨年の5月には7割くらい仕上げたんですが、『THE SECOND ~漫才トーナメント~2025』のグランプリファイナルに進むことができまして。
――ザ・ぼんちさんの決勝進出は大きく話題となりましたね。
里見:金属バットさんと戦って敗れはしましたけど、反響はすごかったですね。びっくりしました。LINEおよび電話もそうですし、そのあと会社に入ってくるお仕事……ひとつひとつが重かったですね。嬉しかったです。『インタビュー ここから』(NHK)では土曜日の朝25分間、我々だけを放送してくれて。あと、『徹子の部屋』(テレビ朝日)にも出させていただきました。
50歳で、ザ・ぼんちを再結成したんです。昔の『THE MANZAI』(フジテレビ)で世の中に出た29歳から31歳の時のような忙しさではないですが、決勝に進んだことでいいお仕事をいっぱい入れていただき、いい風の中で今に至るまでお仕事させていただいています。
僕らの環境がずいぶんと変わってしまったので、この本も『THE SECOND』から入らせてほしいとお願いして、今のかたちになりました。たくさんのお仕事もやらせていただきながら本を書いていたので、正直言うと大変でした。けれど、僕らにとって仕事は大きなごちそう。こうなりたくてこの世界に入ってきた人間ですから、忙しいことはありがたいことなんです。このお正月もたくさん仕事をいただいて、年末年始は全部ネタを変えると決めてやりきりました。
――すごいですね。執筆はご自身の過去を改めて振り返る機会にもなったと思います。
里見:サブタイトルに「念、縁、運」とあるように、振り返ってみると時間はかかっているけれど、いい出会いに恵まれてきたんです。後悔としては、高校で硬式野球部から軟式野球部に転入したこと。そのまま硬式野球部で頑張っていたらという悔しさは今もあります。けれど、それが後々、おさむとコンビを組むことにつながるわけですよね。弟子やった時もしんどかったですけど、絶対に答えが出るまでは続けようと思っていました。
諦めないという気持ちでやっていたら誰かが見てくださっていて、引き上げてくれるものなんです。ザ・ぼんちを一度解散して、亀山房代さんと漫才コンビを組んだ時もそうでした。僕はもう捨てるもんもなかったし、守るものもなかったので、ただただひたすら漫才の稽古をしました。亀山さんは漫才の素人さんやから、うまいこといかへんのは当たり前。「なんでできひんねん!」って言うたとして、その言葉は自分に返ってくるもの。ですから、そんなことは言うはずもありません。亀山さんは頑張り屋さんで、2年半の間、1日8時間、漫才の稽古をしました。そんなことを思い出しながら、目をうるうるさせながら書きましたね。
墓石の前で「お父さん、助けて」と涙して

――また、どん底のような辛い経験にも触れられています。
里見:ザ・ぼんちを解散した時、仕事が減るやろなとは思ってましたけど、何もなくなった時は本当にきつかったです。1回離れると劇場とかも全く知らない、よその場所に行ってる気分になって行きづらくなりました。会社の入り口で止められたらどうしようと思いましたし……。「僕のこと知らんの? 武道館でライブやったんやで?」って言うわけもいかんしね? 劇場や吉本の大阪本社にも足を運ばなくなりました。
ただ、一昨年まで吉本にいてはった吉野伊佐男さんだけが会うてくれはってたんです。35歳の時やったかな。大阪本社まで吉野さんに会いに行ったら、一緒に入った喫茶店で「まーさん、このままやったら負け組になってしまうで? なんか作戦を考えよう」と。こんなんできます、あんなんできますを作ろうやと言ってくれたんです。
そのあと、ものすごくお世話になっている人と近くですれ違って、「お茶飲みに行こう」と誘われました。で、同じ喫茶店にまた入ったら、その人から「ごっつい失礼な話やけど、今の僕がどうしてさしあげると、まささん、助かります? 例えば、営業を入れたら? それか、うちの会社にポジションを作りますから働きませんか? もしくは何かやりたいことがあんねんやったら、バックアップします」って言われたんです。
帰りの電車の中で、吉野さんにあそこまで気を使わせるところまで、僕は来てるねんなと。この本でいう“地獄”ですよね。お父ちゃんの墓石の話にもつながるところですけれど。
――漫才師として未だ現役でたいへんご活躍されている里見さんにこういう時期があったことに驚きました。人生の中で行き止まりを経験した人ならば共感できるところでしたし、自分もがんばろうと元気をもらえると思いながら拝読しました。
里見:そう言っていただけて嬉しいです。漫才ブームで世に出ていきましたけど、こんなにも僕って何もできひんのかいなということを嫌というほど思い知った日でした。そこから5日目、お父ちゃんの墓石の前で「お父さん、助けて」と涙して……。それが通じたんか、『2時のワイドショー』(読売テレビ)の出演が決まったんです。
僕らを世に出してくれたフジテレビさんに感謝してたけど、よくよく思うたらフジテレビさんだけちゃうな。読売テレビさんにも足を向けて寝られへんなと思いますね。
――頑張ろうとしている里見さんを見離さなかった吉本にも、ですよね。何より里見さんがダメな自分をちゃんと見つめて、変わろうと努力するところが素晴らしいですし、厳しい言葉をちゃんと受け止めたのもすごいなと。年齢を重ねると怒られたり指摘されたりする機会は減りますし、なかなか受け止められない人もいるじゃないですか。
里見:『2時のワイドショー』で久々に会った吉本の会社の偉いさんに言われました。「怒るかも知らんけど、久しぶりに会うたら、顔が素人になってる」って。本当にそうで、自分のことは自分が一番よく知ってますからね。
僕は本来、ほったらかしにしといたら、なんにもしないんです。例えば休みやったら、パジャマのままベッドの上でテレビをずーっと見ている人間。そんな自分を十分わかってるし、そんな自分が嫌やからゴルフをしたり、お城回りをしたりと、なんでもいいから外に出るようにしているんです。あと、自分磨きで講釈も学んだり、歴史の勉強もまだ物足りんから近代日本史を学べるところを探しているところです。
見た目もそう。鏡越しに自分を見て、あぁ、おじいちゃんになってる。こんなんあかんって自分自身に言い聞かせて姿勢を直しますし、ちゃんと笑顔も見るようにしています。
一歩踏み出そう。景色は変わる

――いろんな人が共感できたり、頑張ろうと元気をもらえたりする1冊ですが、どんな人に読んでもらいたいですか?
里見:タイトルは『漫才の一滴』となっていますが、漫才師さんだけに捧げた本ではございません。学生さん、働いていらっしゃる方、あぁ、やっちゃったなと思ってる方、仕事を辞めようかなとか思っている方……そんな方々にペラペラとページをめくっていただいて、ちょっと頑張ろうと思ってもらえたら嬉しいですね。
いい言葉はいろんなところにいっぱいありますよ、失敗は成功のもとやとかね。けど、当事者はそんなことを言っていられません。苦しんでいる人たちを助けられるかどうかはわかりませんが、(この本を読んで)底があるということは上もあるやろうと気づいてもらえたら。
知り合いの銀行マンががんばって支店長までなった時に仕事で失敗して、別の場所に飛ばされてしまったんです。その支店最後の出社日、一番偉い人に呼ばれて言われた別れの言葉が「花ってな、春に咲く花もあんねん。夏に咲く花も、秋に咲く花もある。ええか? 少し遅れて咲く冬の花もあんねんで」だったんですって。その人はボロボロと泣きはったらしく……僕も話してて泣けてくるわ(と、ハンカチで涙を拭う)。
――厳しいけれど優しく、励まされる言葉ですね。
里見:その方は寂しいところへ行かされたけれど、帰ってきて常務にまでならはりました。僕のことも応援してくださって、大阪の八尾市に「喜楽亭」という寄席小屋を一から作ってくださったんです。10年やるということで作ってくださって、今年がその10年目。色々と企画を考えています。
――精力的ですね。里見さんにとって漫才という打ち込めるものに出会ったことが、“運”や“縁”なのかなと。自分の柱、そして目の前にあることを一生懸命にやる大切さも、この本を読んで学びました。
里見:ありがとうございます。漫才が向いていたとはとても思えないけれど……よく今まで続けられたなと思います。このタイトルにちなんでお話しするなら、まさかザ・ぼんちとしてまた漫才することになるとは思ってなかったんです。漫才ってエネルギーがいるんですよ。50歳まわって(相方と)喧嘩するのも嫌やし、いい時ばっかりやったらいいけど、そうはいかない。新ネタをやるたびにああだこうだと(意見を交わす)その繰り返しですからね。
僕が漫才に向いていたかどうかもわかりませんが、みなさんも走り出したことはやめずに続けていただければ。失敗したらしゃあないし、やっぱり凹んでおかないとね。この本を通して、自分なりに一歩踏み出せば景色が変わることを、みなさんに知っていただけたら何よりです。“一歩踏み出そう。景色は変わる”です。

■書誌情報
『漫才の一滴 - 笑吉が教えてくれた「念、縁、運」』
著者:里見まさと
価格:1,800円
発売日:2026年1月30日
出版社:ヨシモトブックス















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