伊藤亜和「自分は“公共物”だと思ってた」 プライバシーよりも「面白い」を最優先に生きる理由


2022年にnoteに投稿したセネガル人の父親とのエピソードを書いたエッセイ『パパと私』が話題となり、創作大賞2023 メディアワークス文庫賞を受賞し、一躍知名度を高めた文筆家・伊藤亜和。近年では情報番組に出演するなど、活動の幅を広げている。
そんな伊藤が、自身にとって4冊目の書籍『変な奴やめたい。』(ポプラ社)を発売。幼き頃のエピソードをみずみずしく表現したエッセイ集である本書は、発売直後から話題となっている。
今回のインタビューでは本書の執筆エピソードのほか、4冊目の出版とメディア出演を通して知名度が上がることで気づいたこと、そして活動のモチベーションについて語ってもらった。
受け入れられた変な自分

伊藤:幼少期の話を書くと、「どうしてそんな昔のことを覚えているんですか?」とよく聞かれるのですが、私は記憶力が特別いいわけじゃなくて。祖父がカメラを趣味にしていて、写真や映像が多く残っているので、自然と記憶が呼び起こされるんだと思います。これまでの人生で、ずっと“過去の自分”と“今の自分”の距離を確認しながら生きてきた、という感覚があります。
――年齢を重ねると、子どもの頃の感情は忘れがちですが、小さい頃の自分の思考や感情を思い出せないことはありませんでしたか?
伊藤:あまりなかった気がします。当時の自分の考えとして心の引き出しにしまっていたものは、大人になった今でもそのまま使っている部分が多くて。もちろん、大人になって表現の仕方や見せ方は変わっているかもしれませんが、根本の考え方は変わっていないように思います。もし今の私が子どもの頃の自分に会えたら、きっとすごく話が合うだろうなと思います。
――過去の「変な奴」エピソードとともに、「今でも変わっていない」と書かれている箇所も多いですね。
伊藤:大人になって社会の常識がわかってくると、自分の考え方がいかに社会から外れているか理解できるようになりました。たとえばこの本にも書いた一生懸命つくった秘密基地を「私有地だから」と大人に解体されたエピソードがあります。当時の私は「世の中に“人の土地”なんて存在しない」と本気で思っていたんです。地球上の人間が勝手に名前をつけて「これは自分の土地だ」と言い張っているだけだ、って本気で思っていました。だから秘密基地が壊されたことがまったく理解できなかった。
もちろん今では「そういうルールがある」ということは理解できます。でも正直に言えば、理解はできるけど未だに納得はできていなくて。「世の中に“人の土地”なんてものは存在しない」みたいな、人類の都合に対する疑問は変わらず残っています。
――本書を読んで伊藤さんが「変な奴」をやめるのではなく、受け入れられるようになっているのを感じました。
伊藤:昔の私は「こうあるべき」という自分の理想から外れている部分に、強い自己嫌悪があったんです。でも今は、それを面白おかしく本に書いたり、可愛げとして披露できるようになりました。これは子どもの頃の自分とは大きく違うところです。大人になって、自分のダメな部分を必死に隠すのではなくて、“人に愛される部分”としてうまくラッピングできるようになりました。
――大人になって「変な奴」を受け入れられたわけですね。
伊藤:大学生のとき、人と話せるようになろうと思ってガールズバーでバニーガールの格好をして働き始めたんですが、意外と話下手なままでも「それはそれで面白い」と受け入れてもらえて。それから自分を無理に普通へ寄せる必要はないと、徐々に気づくことができました。
ーー人と喋ることも嫌な時があったのですね。
伊藤:変な自分を深刻に受け止めすぎていたのだと思います。全然喋れなくて、引きこもりがちになったりしてました。でも周りを見渡すとみんなちょっとずつ変なんです。「自分にしかわからない」と思っていたことも「分かるよ」と言ってくれる人がいる。自分が「壁」だと思っていたものは、実は壁じゃなかったんだ、とわかりました。
アフリカ系のハーフなんて見たことなかった
――エッセイでは、よく見られようとせず素直に自分のことを書いている印象があります。
伊藤:1作目を出したとき、読んでくれた方々の感想を見ていると「性格に問題はあるけど面白い」といったコメントが結構あったんですね。私は、自の性格に問題があるなんて全く思わずに書いていたので、「自覚がないのに出てしまうなら、もう隠す意味はないんじゃないか?」と、少し諦めのような気持ちが生まれて。「まあ、面白いならいいや」と思って、気にせず書くようになりました。
――伊藤さんはnoteに投稿された文章が話題になり作家デビューされました。「面白ければいい」という感覚は、作家デビューを機により強くなったのでしょうか。
伊藤:私は生まれたときからずっと「人から見られて面白い」ことを最優先で生きてきました。最近自覚したことですが、私は一般の人よりプライバシー意識が薄いんです。「これは隠したい」「これは言いたくない」という感覚がほとんどない。多分、自分だけの“世界”みたいなものが私の中にあまりないんです。
誰しも自分の中に秘密の部屋のようなものがあると思うのですが、私にはないんです。たぶん他人と同じ視点で自分自身のことを見ています。だから自分が「癒される」とか「満足するため」に書いたことは一度もなくて、とにかく人が読んで面白がってくれたら嬉しいと思って書いています。
――今では「インターネットにプライバシーな部分を書いてはいけない」と教わります。でも伊藤さんは全く違いますね。
伊藤:私は全く気にしませんでした。2ちゃんねるで普通に顔を出してましたし。
――それはどうしてでしょう?
伊藤:自分が“公共物”だと思っていたんですよね。小さい頃からほかの人とは違う容姿で、どこに行っても人にじろじろ見られる。実際に見られていたかどうかはわからないけど、「私のこと話しているのかな」と思い込んでしまう。だからなのか、”もっと自分の情報をコンテンツとして提供しなきゃ”という気持ちが、小さな頃から強くありました。
――なぜ、そう感じていたのでしょうか。
伊藤:“いないこと”にされている気がしていたんです。テレビを見れば「ハーフタレント」と言われる子がたくさん出ていますけど、白人系ばかりで、アフリカ系のハーフの子なんてほとんど見たことがなかった。それだけじゃなくてお店でも私の肌に合うファンデーションだって売っていないし、ストッキングもない。「私みたいな人は、どこで生きてるんだろう?」という気持ちがずっとあって。だから、「私はここにいるよ」と伝えなきゃいけないという気持ちはいまでもあります。
少しでも心の支えになれるのなら
伊藤:少しずつ届いているとは思うけれど、まだまだです。有名なラッパーみたいに、街を歩けば誰もが知っているようなアイコン的存在になって、自分の伝えたいことをしっかり届けられるようになりたいです。
――モデルとしての活動もあり、認知度は広がっているように見えます。
伊藤:容姿だけで世に知られるということは、あまり意味のないことだと思っています。モデルをやってたとはいえ、活躍する人たちの足元にも及びません。だからモデルについて語る資格なんてないのですが、「文章が書けるモデル」というだけはダメだと思っていて。
ーーそれはなぜですか。
伊藤:「文章を書けるモデル」という認知のされ方だと、なぜか読者の文章への親近感がグッと下がってしまうような気がするんです。「あなたは容姿に恵まれているから、違う世界の人」と、急に遠い存在として扱われ、距離を置かれてしまうことがある。私はみんなの輪の中に入り、その中で「同じような人間だけど、こういう人もいる」と自分の存在や考えを示すことが大事だと思っています。だからこそ、容姿以外の技術や表現が伴っていなければならないと感じています。
ーーそれはやはり「ここにいるよ」という存在証明のために。
伊藤:最近は少女漫画誌で連載したり、絵本を書いたりと、子どもたちと関わる機会が増えてきました。私がバニーガールをしていたことを知って、同じお店に入店したハーフの子がいるのですが、その子が「ハーフの友達はみんな亜和さんの本を持っています」と言ってくれたんです。自分のために始めたことだけど、意識していないところで、力になれていると感じています。

伊藤:最近、ハーフの子たちとよく話していることなのですが、日本でも外国人に対して排外的な雰囲気があるじゃないですか。私はまもなく30歳だし、フリーランスで都内に住んでるから、環境的にもはや自分が異質だとは感じにくい。だからそういう空気が自分に向けられても、あまり気にせずにやり過ごすことができる。でももし私が10代で、周りに同じような境遇の子が少ない地方に住んでいたりしたら、きっとすごくしんどかっただろうな、と思うんですね。そういうハーフの子たちにとって、“救い”なんて言うのはおこがましいけれど、私がどんどんメディア露出をすることで、少しでも心の支えになれるのなら嬉しいです。
――読者層を意識して書いているのですか。
伊藤:あまり意識はしてないです。私の本ではハーフの人たちから自然と関心が集まりやすいのは事実だと思います。でも、私はその子たち“だけ”に向けて文章を書くのは良くないと思っていて。もし私の周りに同じ境遇の子たちだけのコミュニティができてしまったら、その子たちはほかのコミュニティから孤立してしまいますよね。
だから私は、いろんな人が読んで“面白い”と思えるものを書きたい。お年寄りでも、おじさんでも、おばあちゃんでも、おじいちゃんでも、若い人でも──誰でも楽しめるもの。その中に、たまたま私のようなハーフの子たちも混ざって読んでくれる、という状況が大事だと思っています。
■書誌情報
『変な奴やめたい。』
著者:伊藤亜和
価格:1,760円
出版社:ポプラ社















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