又吉直樹 × ヨシタケシンスケ、本を「書く」か「読む」のどちらかを選ぶとしたら? 二人の共通した答えとは

後編 又吉直樹×ヨシタケシンスケ インタビュー

 お笑い芸人・又吉直樹と、人気絵本作家・ヨシタケシンスケによる最新作『本でした』(ポプラ社)が、8月5日に発刊された。

ヨシタケシンスケ、又吉直樹 『本でした』(ポプラ社)

 これに際して、著書二人のインタビューを行った。後編では「想像力」について思うことや、「"書く"か"読む"、どちらか選択するとしたら?」の問いに答えてもらった。

又吉直樹×ヨシタケシンスケ「今回は毒を入れました」 ベストセラーの続編『本でした』刊行インタビュー

お笑い芸人で芥川賞作家の又吉直樹と、人気絵本作家・ヨシタケシンスケが共著し、累計30万部を突破した前作『その本は』から3年ぶりの…

 

"想像力"の使い方「いい使い方も悪い使い方もできるんですよね」

 

――創作活動はもちろん、生きることにおいて「想像力」はなくてはならないものかと思うのですが、お二人が思う想像力の育て方や大切さをどのようにお考えでしょうか。

ヨシタケ:こういう仕事していると「どうやって想像力を増やせばいいんですか?」といったご質問を受けることがよくあるんですけど、想像力って力のひとつであって、いい使い方も悪い使い方もできるんですよね。「どうやったら、あいつは苦しむかな」も想像力だし「空が落ちてくるのが怖くて、外に出られなくなる」のも想像力の成す技なんです。逆を言えば、想像力がないからできることもいっぱいあって、例えば大きな組織のボスは、社員一人一人の生活のことを考えたら大きなかじ取りはできないし、人の気持ちが分からないから重大な決断ができることもある。想像力がないことで、いいこともあるんです。

 それに、想像力が強すぎると臆病になってしまって、僕にとっては想像力って不安のもとでしかないんです。「あんなことが起きたら嫌だな」とか「こんな風に思われたくないから、最初からやらないでおこう」と、生き方を制限するのが僕の想像力でした。それがまさか仕事に活かされるなんて想像もしなかったし、自分を苦しめてきた想像力がプラスの方に使えたのは、想像力が豊かだから成せる技ではないんですよ。

絵本作家 ヨシタケシンスケ

――想像力を自分でどの方向に使うか、ということなんですね。

ヨシタケ:あくまでも力の一種なので、それをどう平和に利用するかということの方が大事で、なければないなりにいい使い方や方法があるから、それをどう整備していくかということが大事なんだと思います。「バカとハサミは使いよう」と一緒で、道具である以上、力である以上、それを使う人の魂によって良くも悪くもなる。その能力自体はいいものでも悪いものでもないのが前提であることは、大事なことだと思いますね。

又吉:今のヨシタケさんの話を聞いていて「確かにそうだな」と思います。自分の想像力という言葉の使い方を振り返ってみると、偶然なのか必然なのか、大体「優しさと想像力」をセットで使っていることが多いんです。きっと自分の中で何となくポジティブな使い方をするべきだと思っていたのかもしれません。僕が普段書いている小説では、結構過激な言い方もしていて、例えば「想像力と優しさが欠落した奴は例外を認めずただの豚」.とか書いているんですよ。それを悪い方に振り切ってサディスティックな意味としての言葉に置き換えられるのかもしれないですけど、想像力が自分を傷つけてしまう時もあるじゃないですか。

 例えば、さっきまでみんなが笑っていた部屋に自分が入ったら全員黙り込んだ時「今、自分のモノマネをされていたんじゃないか?」とか「今、自分の悪口を言われていたんじゃないか?」と思うのも想像力ですしね。そもそも、想像力って増やせるものなんですかね? その量自体を増やせるかどうかって、結構大きな問題かなと思うんですけど。

ヨシタケ:使い道さえ間違えなければ、量を増やさなくても、少ないなりにいい使い方をしようとするし、平和に暮らしていけるんですよ。多分、生まれついての個性としか言いようがないものなんだと思います。それは本を読むとかいろんなことで多少は増減するし、そのチャレンジはするべきだとは思いますが「想像力」の総量みたいなものは、生まれつき足が速い・遅いと同じようなもので、個性のひとつなんじゃないのかなという気がするんです。

 「この後どうなるのかな」って考える想像力は罪のないものだし、自分を楽しませてくれるものですよね。そういう意味では、この本が「想像力をこういう風に使うといいよね」というサンプルのひとつになってくれるといいなと思います。

又吉直樹

――先ほど又吉さんが仰っていた「優しさと想像力がセットになっている」ことが多い理由を、ご自身ではなぜだと思いますか?

又吉:ヨシタケさんほど明確に言語化できないんですが、想像力って言い方だけでは若干足りていない「才能」みたいな言葉に取られることが多いじゃないですか。優しさはもうちょっと広いというか、優しさも想像力と同じように悪い結果につながることもあるから、なんとなく補完しておこうとしてセットにしていたのかもしれないですね。

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