野村高文が語る音声コンテンツの可能性 「ポッドキャストはアテンションエコノミーに左右されにくい」

プロ目線のPodcastのつくり方 インタビュー
野村高文『プロ目線のPodcastのつくり方』
(クロスメディア・パブリッシング)

 「ながら聴き」できるのが魅力のポッドキャストは、現代の情報過多社会において、「耳」から得られる音声メディアとして進化を続けてきた。

 さらに、YouTubeなどの動画メディアに比べてリスナーの滞在時間が長く、複雑な話題や専門性を深く届けることにも適している。こうしたことから、ビジネスシーンでもポッドキャストを活かしたコンテンツ制作に注目が集まっているのだ。

 今回は『プロ目線のPodcastのつくり方』(クロスメディア・パブリッシング)の著者・野村高文に、ポッドキャストの企画の立て方やリスナーの関心を引きつけるコツ、収益化のポイントなど、実践的なノウハウをたっぷりと伺った。

ポッドキャストが「新たな発信手段のひとつ」として受け入れられてきた

野村高文氏。取材は4月に開設されたばかりの「Chronicle清澄白河スタジオ」で行われた。

――まずは、野村さんがポッドキャスト事業で起業された背景を教えてください。

野村高文氏(以下、野村):私がまず最初に音声コンテンツの魅力に気づいたのは、2015年からTBSラジオの番組にコメンテーターとして出演し始めた時でした。当時はNewsPicksの編集者として働いていて、それこそ何万PVも読まれる記事を作っていましたが、それ以上にラジオでの反響が意外に大きかったんですよ。

 タクシーに乗った際に運転手から「ラジオに出てますよね?」と声をかけられた時は、「こんなに聴いてくれている人がいるんだ」と驚いたんです。ちょっと不思議に思いましたが、記事を読まれるよりも自分の声を聴かれるほうが、ダイレクトに反応が返ってくる感覚があったんですね。

 そこから音声メディアへの興味が深まり、2018年にはVoicyで個人配信を始めました。再生数は数百再生ほどでしたが、それでも多くのコメントをいただけるなど、音声の可能性をあらためて実感したんです。そして、2019年ごろに「音声コンテンツを担当させてほしい」と会社側に掛け合って、自分の業務時間の2割ほどを使って音声企画の立ち上げに携わるようになりました。

 実際に配信してみると、「毎回聴いています」「通勤中ずっと声を聴いてます」といったリスナーの感想が直接いただけて、再生数以上に“届いている手応え”を強く感じました。これは事業として本気で取り組む価値があるーーそう思い始め、独立・起業を具体的に考えるようになりましたね。

 もう一つ大きな後押しになったのが、アメリカの動きです。ポッドキャスト制作専門会社の「ギムレット・メディア」がSpotifyに買収されたニュースは衝撃的で、「アメリカではポッドキャストがビジネスとして成立しているのか」「これは日本でも数年遅れで必ず来る」と確信したんです。こうして音声メディアへの挑戦を決意し、2022年1月に今の会社を創業しました。

――直近の日本におけるポッドキャスト市場トレンドの状況はどのようなものですか?

野村:現状で言うと、ポッドキャストのユーザー数は微増を続けていて、最新のポッドキャスト実態調査では「成人人口の17.2%が月に1回以上ポッドキャストを聴いている」というデータがあります。

 その一方で、配信者側は明らかに増加していて、書き手の方もそうですし、政治家の小泉進次郎さんが番組を始めるなど、ポッドキャストが「新たな発信手段のひとつ」として広く受け入れられ始めていると感じています。

 また最近目立つのは、ラジオ番組のスピンオフではなく、最初からポッドキャスト前提で企画される番組です。Audibleではお笑い芸人の有田哲平さんがポッドキャスト番組を配信し、最近では上田晋也さんの番組もスタートするなど、大手が本格的にオリジナル番組制作へ投資する動きが顕著になっています。

 プラットフォーム別の特徴を見てみると、Spotifyはランキング上位のほとんどがお笑いコンテンツになっていて、YouTubeよりも20代のリスナー層が厚いと言われています。つまり、お笑い番組を入り口に若いリスナーが聴き始め、ポッドキャストのニーズが広がっている状況かと思います。他方でApple Podcastは、30~40代の男性ビジネスパーソンから主に支持されており、プラットフォームごとにユーザー層がかなり分かれているのも、日本のポッドキャスト市場の特徴になっています。

職業、ライフステージ、趣味嗜好。3つの属性から「語る必然性」を見つける

――ポッドキャストの企画で根幹になるのが「人×テーマ」と著書の中で書かれていますが、リスナーに興味を持ってもらうための重要な要素は何ですか?

野村:私自身も現場でいろんな企画づくりをしていると、「どうやってリスナーに興味を持ってもらい続けるか」というのにいつも頭を悩ませています。そんななかで、まず考えるべきことは 「自分の属性 × テーマ」 です。

 属性は大きく分けて「職業」「ライフステージ」「趣味嗜好」の3つがありまして、このどれかを軸にしながら「自分はどんな立場から話すのか」を明確にすること。これがまず最初のステップになります。次に、その属性に紐づく「語る“必然性”があるテーマ」を探していきます。例えば、金融機関で働いている人なら、企業の資金繰りや地域ビジネスの動向を日常的に見ていると思うので、「最近のスモールビジネスの潮流」は、その人だから話せるテーマだと言えます。

 こうした必然性のあるテーマはリスナーに届きやすく、魅力的なコンテンツになり得るでしょう。なので自分は何者か、どの属性で喋るのかというのを明確にしたうえで、その属性だからこそ語る必然性のあるテーマを選定するのが重要です。

 あとは、そもそも全くの無名からポッドキャストを始める際に企画のタイトル付けや各回におけるトークテーマの設定で、「この回を聴くと、こんな良いことがある」みたいなものを少しでもいいのでチラ見せし、リスナーにとっての“お土産”を示すことが大切です。

 ただ、ここで抑えておきたいポイントは「YouTubeのように単発でバズらない」ということです。ポッドキャストに関しては、良くも悪くも個々のエピソードの強さで決まるわけではなく、毎回ほぼ再生数が同じくらいなんですよ。これは裏を返すと、一回で跳ねることがそんなにないということ。だとすると、1回で勝負しようと思うのではなく10回、20回と配信していったときの「首尾一貫性」が問われてくるわけです。「この人はいつもこの視点で、この領域を深掘りしてくれる」といった軸が伝わるようになれば、リスナーも定着してくると考えています。

――瞬間風速的なものではなく、息の長いコンテンツ制作が求められるということですね。

野村:そうですね。特にショート動画だと、ほぼ最初の数秒で勝負が決まりますよね。“掴み”で興味を引けるかどうかで離脱率が決まり、離脱率によってアルゴリズムに評価されるかどうかが決まる。アルゴリズムの評価によって、動画がバズるか否かが決まる世界です。

 でも、ポッドキャストの場合はそれとは違って「継続的に聴くことで、1つのテーマが体系的に理解できる」という期待感をリスナーに持ってもらうことが重要です。その期待感があるからこそ、リスナーは次の回も聴き続けてくれるんです。

音声で専門性を伝えるポッドキャストは完全聴取率が高い

――ポッドキャストと他のメディアの違いを教えてください。

野村:他のメディアとポッドキャストの最大の違いは、「リスナーが最後まで聴いてくれること」です。20~30分のエピソードでも「完全聴取率」は7~8割程度と高く、離脱率が非常に低いのが特徴です。仮に同じ尺でYouTubeと比較すると、滞在時間だけで約5倍ほども高くなるイメージです。また、先述したようにポッドキャストでの配信はほぼ再生数が安定しているため、複雑な話題や自分の背景・思想をじっくり語ってリスナーへ届けるのにとても向いている媒体です。

 感覚としては書籍に近いと思っているんですけど、自分がポッドキャスト番組を制作するときは、書籍編集の脳みそを使って作ることが多いんですよね。1冊分の内容を複数回に分け、首尾一貫したテーマに沿って構成するように意識しています。

――クリエイターやビジネスパーソンがポッドキャストに取り組む意義はどのようなものだとお考えですか。

野村:ポッドキャストは他の媒体よりも多くの情報をじっくり届けられ、専門性のアピールに非常に有効なので、特にBtoBや高単価のBtoCビジネスに向いています。以前はブログで専門性を示す手段もありましたが、最近はテキストが読まれづらく、かつ発見されにくくなっています。

 対して、音声で専門性を伝えるポッドキャストは、動画よりもたくさんの情報量を詰められるので、専門性の訴求や深い理解を届けたい事業者に適したツールだと言えます。

 また、ポッドキャストは継続的に配信することで力を発揮するという特性があるので、アテンションエコノミーに左右されにくく、落ち着いたトーンで専門性や権威性、信頼感をアピールできる点が強みです。YouTubeのサムネイル空間に自社のブランドを出したくない企業でも、ポッドキャストであればブランディングを損なわずに配信できるという利点があります。

 マネタイズの観点で説明すると、例えばYouTubeチャンネル登録者数が1万人いて1万再生されるのと、ポッドキャストで毎回2000人が聴いてくれるのがおおよそ同等のエンゲージメントがあると考えています。要は、「長方形が横長か縦長か」みたいな話だと思ってもらえれば理解しやすいでしょう。

 現状のところ、ポッドキャストは再生数に応じた収益モデルにはなっていませんが、リスナーが配信をきっかけに行動を起こすアクション率に関しては、肌感的にYouTubeの5~10倍程度だと感じています。つまり、ポッドキャスト自体で収益化を狙うよりも、購買やリアルイベントへの誘導など、リスナーと深い関係性を作ったうえで、別のマネタイズポイントにつなげるのが現実的な戦略だと考えています。

リスナーに最も伝えたい“持ち帰りポイント”を考えておくこと

――情報発信のコンテンツを作るうえで “ネタ切れ”の不安はつきまといます。プロの目線から考える番組を続けるコツがあればお聞かせください。

野村:コンテンツには「ストック型」と「フロー型」の2種類がありますが、まずはストックコンテンツで自分自身を伝えることがおすすめです。職業的専門性やキャリアヒストリー、ライフヒストリーなど、自分がたどってきた歴史は普遍的なもので、リスナーに「自分はどんな考えを持っているのか」を理解してもらうことで、パーソナリティを確立できるからです。

 しかし一般的には20回くらい、どんなに引き出しが多い方でも50回くらいでネタ切れに直面します。そこで、徐々にフローコンテンツにシフトしていくのが効果的です。具体例としては、自分の専門性や立場から見たニュースの紹介やゲストとの対談、リスナーからのお便り紹介など、理論上は“無限”に仕込めるトピックを取り扱うことで、ネタ切れを避けながら番組を長く続けることができます。

 最初に自分をしっかり伝え、そこから外部の力も借りながら無限に展開できるフローコンテンツに移行していくーーこれがポッドキャスト運用の理想的な流れです。

――「準備が7割、本番が3割」という考え方のもとで“想定外の面白さ”を引き出すための創意工夫や余白をどう作るのがいいと思いますか?

野村:ポッドキャストを作る際、準備とアドリブの比率は人によって変わります。もし初心者の場合は、事前準備として、リスナーに最も伝えたい“持ち帰りポイント”を考えておくといいでしょう。

 目安として、30分なら5つくらいのチェックポイントを決めておき、それをしっかり抑えつつ、それ以外の部分は雑談や流れに任せる余白を作ると自然な会話が生まれます。逆に台本を完全に固めすぎると、読むことに終始してしまい、自然な対話やつながりがなくなってしまうので注意が必要です。

 準備とアドリブの比率の目安は7割を準備、3割を自由に任せるくらいがちょうどいいですが、雑談主体の番組なら自由度を多めに、ナレッジや専門性重視の番組なら準備を厚めにするといったように、テーマや配信スタイルによって調整するといいでのはないでしょうか。

――近年のYouTubeのコメント欄では、「話し方がうまい」とか「BGMは不要」といったように、作り手目線のコメントが増えてきた印象がありますが、この傾向についてはどう認識されていますか?

野村:いろんなコンテンツに触れる機会が格段に増えたことで、視聴者の目が肥えているんじゃないですかね。今回の私の本に限らず、制作ノウハウもどんどん公開されていますし、作ること自体や発信することも以前より簡単になっています。その結果、ノウハウの民主化が進んで“1億総クリエイター時代”のようになってきているのではないでしょうか。

 だからといって、制作側としては意見をもらうこと自体に否定的ではなく、むしろ「こういうふうに考える人もいるんだな」と受け止めることが多いですね。ただし、具体的にこう改善したら良いなど、建設的な意見が欲しいなとは思います。

ホストによる独自視点の深掘りが、ポッドキャストの価値を高める

――日本のポッドキャスト市場は「タイムマシン経営のチャンスがある」とのことですが、音声コンテンツの将来性についてはどのように捉えていますか?

野村:現代人は常に忙しく、さらにはコンテンツも大量にあるため、視聴時間が圧倒的に不足しています。しかし、普段は音声を聴く習慣のない人にとって「耳が空いている時間」というのは、言ってしまえば「無から突然生まれた時間」のように感じられ、非常に大きなインパクトがあります。

 人間性が伝わりやすいとか、心理的な関係性が作りやすいといった音声の価値があるなかで、「ながら聴き」ができるというポッドキャストの最大の利点を活かすことで、音声メディアの成長を牽引する大きなポイントになると思います。

 音声コンテンツのフォーマット面でも、日本ではまだ少ない「ホストが長時間インタビューするスタイル」が出てくる可能性もあると感じています。アメリカのポッドキャスト界では、ジョー・ローガンやレックス・フリードマンのように、「このホストだから面白い」という番組が評価されています。

 単に面白い雑談をするだけではなく、ゲストの話のどこが新しい情報なのか、リスナーの既知の情報か、それとも意外性のある話なのかを見極め、深掘りする力を持ったホストが番組の価値を生むわけです。

 最近はAIの台頭で、誰が解説しても変わらないニュースやまとめ情報の価値が下がっています。そのため、面白い聞き手やホストが独自の視点でゲストの話を掘り下げる番組こそ、ポッドキャストが発展していく鍵になるのではと考えています。ここでしか得られない情報や視点を提供できる番組が増えると、より価値ある音声コンテンツが広がっていくでしょう。

――最後に、今後の展望についてお聞かせください。

野村:先ほどお話ししたような、良質なコンテンツがもっと日本で生まれてほしい。そのために、私自身が培ってきたノウハウを、この本を通じて広く共有していきたいと考えています。一人でも多くのクリエイターや企業がポッドキャストに挑戦し、リスナーにとって「耳が空いている時間に聴きたい」と思える番組が増えること。それが、日本のポッドキャスト市場全体が活性化されることにもつながると信じています。

■書誌情報
『プロ目線のPodcastのつくり方』
著者:野村高文
価格:1,870円
発売日:2025年10月31日
出版社:クロスメディア・パブリッシング

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