『ザ・ロイヤルファミリー』で脚光、馬主は儲けか、それともロマンなのか? “競馬界”のリアルを読む

馬主は儲けかロマンなのか?競馬界のリアル

 TBS系のドラマ、日曜劇場『ザ・ロイヤルファミリー』で描かれる馬主や競馬業界の姿が話題を呼んでいる。巨大資本を背景にした馬主ビジネス、名家が代々守り続けてきた血統への執着――ドラマでは、馬主は権威や家柄の象徴として描かれ、競走馬が“家の名を背負う存在”として扱われる。一方、現実の競馬界に目を向けると、そこにはまったく異なる馬主像が存在する。

 その現実を鮮やかに描いた一冊が、外国人馬主マイケル・タバート氏の著書『馬主の一分』(競馬ベスト新書)だ。華やかなイメージとは裏腹に、競馬と共に生きる“等身大の馬主”の姿が記されている。

■サラリーマンから馬主へ

 『ザ・ロイヤルファミリー』での馬主像は、家柄・企業・政治力が絡む“特権的立場”として描かれる。しかし本書の著者タバート氏はまったく異なる背景を持つ。オーストラリア出身で、日本の会計事務所に勤めるサラリーマン。富の象徴として馬主になったのではない。競馬への情熱が高じ、地道に資金を蓄え、手続きを重ねて馬主資格を取得した“努力型馬主”だ。

 タバート氏は、2012年チューリップ賞を制し、後に外国遠征でも活躍する名牝ハナズゴールの馬主として知られる。だが本書から伝わるのは、華やかさよりもむしろ「どうしてここまで馬を愛してしまったのか」という人間味あふれる情熱だ。

 本書の興味深い点は、著者が外国人馬主であることだ。馬主申請の煩雑さ、クラブ制度や調教師との距離感、騎手への敬意、馬主に必要な覚悟……。日本競馬に対して感じた戸惑いや率直な疑問、そしてそれを乗り越えていく過程が描かれる。ドラマのように「馬主=資金力」ではなく、一頭の馬を走らせるまでに、どれだけの人間関係と努力が必要なのかがリアルに伝わってくる。

 タバート氏は、自身を「運のない男」だと語る。馬券は下手、期待して買った馬が走らない、ケガでデビュー前に頓挫する。競馬ファンなら誰もが共感するエピソードを馬主自らがユーモアを交えて語る。勝利よりも、馬と共に過ごす時間そのものが価値を生み出している。

 牝馬ハナズゴールとの出逢いも、血統ビジネスではなく、直感と縁の積み重ねから生まれたものだ。タバート氏は、彼女を“愛娘のような存在”として語り、その健闘に一喜一憂する姿は、馬主としての原点を象徴している。

 『ザ・ロイヤルファミリー』ではエンターテインメントとして馬主をドラマティックに描く一方、『馬主の一分』は、競馬に人生を捧げる人間のリアリティを丁寧に紡ぐ。

 この対比が、馬主という存在の多面性をより浮き上がらせる。ドラマをきっかけに「馬主とは何者なのか?」と興味を持った読者にとって、本書は格好のガイドブックとなるだろう。競馬は単なるギャンブルではなく、文化であり物語であり、人と馬のドラマに満ちた世界だということを教えてくれる。

 『ザ・ロイヤルファミリー』でで馬主が描かれることで、視聴者の興味は競馬の周辺へと広がっている。外国人馬主の視点で綴られた本書は、華やかな舞台の裏側にある努力と感情を照らし、競馬の奥行きをより深く伝えてくれる。ドラマの世界と現実の競馬、その両方を知ることで、馬主という存在はますます魅力的に映るだろう。

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