目黒蓮演じる“語り手”が静かな存在感を放つーー『ザ・ロイヤルファミリー』読んでから見るか、見てから読むか?

『ザ・ロイヤルファミリー』をさらに面白く

 TBS日曜劇場『ザ・ロイヤルファミリー』が好調だ。10月12日に放送された第1話は世帯視聴率11.7%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)を記録し、第2話も10.4%と2桁をキープ。競馬という専門的な題材ながら、幅広い層を引きつけるヒューマンドラマとして注目を集めている。

 主演は妻夫木聡で、監督は『グランメゾン東京』『マイファミリー』などで知られる塚原あゆ子。原作は作家・早見和真による同名小説(新潮社刊)で、山本周五郎賞とJRA賞馬事文化賞を受賞した話題作だ。物語は、競馬界に生きる人々の20年を描いた壮大な人間ドラマで、家族の絆、夢の継承、そして赦しといった普遍的なテーマが、競馬という現実の舞台に重なっていく。

 舞台はロイヤルグループの社長・山王耕造(佐藤浩市)が立ち上げた競馬事業部。主人公・栗須(妻夫木聡)は、その秘書として奔走する中で、勝利をめぐる夢と挫折、人々の思惑が交錯する世界を目の当たりにする。耕造の妻・京子(黒木瞳)、息子・優太郎(小泉孝太郎)ら“家族”の確執が物語の軸を形づくり、さらに目黒蓮演じる“語り手”が静かな存在感を放つ。

 第1話からSNSでは「映像が映画みたい」「馬の表情で泣いた」といった感想が相次ぎ、塚原監督らしい映像美と、沈黙を使った演出が高く評価されている。

 そんなドラマを“さらに面白く観る方法”として、ぜひ押さえておきたいのが原作小説だ。早見氏の筆致はきわめて静かで、人物の心の揺れを内面から描き出すタイプ。派手なセリフよりも、沈黙や余白にこそ感情の重みが宿る。読後にじんわり涙がこぼれる“余韻の文学”と呼ぶにふさわしい。

 原作はレースで泣き、レース後のエピローグで泣き、さらに物語の終わりで読者に“希望の続きを託す”余韻で泣く――いわば“三度泣ける”構成になっている。

 「意味を理解してから泣けるタイプ」は、原作を先に読むことをオススメしたい。人物の行動や言葉の裏に隠された意図が見えてきて、レースの一瞬一瞬に深みが生まれる。逆に「感情で泣いてから、原作で理解するタイプ」はドラマを先に観たほうがいいかもしれない。映像で心を動かされたあと、小説を読むことで「なぜあのシーンで泣いたのか」が腑に落ちる。どちらの順番でも楽しめるが、“読む”と“観る”で感じる温度がまったく違うため、両方体験するのがこの作品の醍醐味だ。ドラマがその涙を視覚的に、原作が心の奥で再生させてくれる。この往復こそ、『ザ・ロイヤルファミリー』の真の楽しみ方だろう。

 また、ドラマの舞台となるロケ地が“聖地巡礼”スポットとして注目されている。第1話で登場した新潟競馬場や、牧場のある北海道・日高町は放送直後からファンが訪れる人気スポットに。栗須と加奈子(松本若菜)が再会したセイコーマート前は、SNSで「松本若菜さまの前で記念撮影した!」という投稿が相次いだ。さるYouTuberは、栗須と山王が初めて出会った際に訪れた門別競馬場内のジンギスカン店を実際に訪れたことを報告しており、ドラマを起点にリアルな旅を楽しむファンが増えている。塚原監督の繊細なロケーション演出が「映像きれいだなと思ったらやっぱり塚原監督だった」とSNSで話題になるなど、聖地そのものが作品の一部として愛されているのだ。

 一方、登場人物の“実在モデル”をめぐる議論も盛り上がっている。ネット上では豪快な馬主として知られる関口房朗氏や近藤利一氏を思い浮かべる人も多いが、作者の早見氏は「特定の馬主モデルはいない」と明言している。とはいえ、まったくの空想ではなく、早見氏が山王耕造の人物像を構築する際、参考にしたのは元東京地検特捜部の田中森一氏の生き様、そして冠名「メイショウ」で知られる馬主・松本好雄氏の“信念”だという。特定の誰かを模すのではなく、人としての矜持や覚悟を“魂の集合体”として描いた結果、フィクションでありながら“実話のように感じる”説得力が生まれている。

 さらに競馬ファンを喜ばせているのが、細部へのこだわりだ。美浦トレセンでの実撮影や、実際の厩舎スタッフの登場など、リアルな競馬現場の空気がそのまま映し出されている。武豊や戸崎圭太といった現役騎手の登場シーンが話題となったが、第2話ではわずか数秒のカットに現役騎手の江田照男がチラリと映り込み、「あれ江田さんじゃない?」「大穴男がいた!」とSNSが沸騰。競馬ファンは一瞬も見逃せない内容となっている。こうした“現実と虚構の交錯”が、ドラマのリアリティをさらに強めているのだ。

 『ザ・ロイヤルファミリー』というタイトルには、“血筋”よりも“志”を継ぐ者たちという意味が込められている。競馬という厳しい世界で、夢を託し、継承していく。家族という枠を超えて、人が人を思うことの強さと切なさを描いたこの物語は、まさに“日曜劇場の王道”と言える。

 さらに、原作を読み、ロケ地を訪れ、リアルとの境界を楽しむ――そうすればこの壮大なドラマが描こうとする“人間の希望”がより実感できるはずだ。

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