70年代回帰がハイブランドのトレンドに? 懐かしさと新しさの融合がSNSで拡散

ハイブランドのトレンド事情

 ファッションの潮流は常に揺り戻しを繰り返す。いま世界の街角とSNSを席巻しているのが、「レトロスニーカー」のリバイバルだ。70〜80年代のランニングシューズやテニスシューズをベースにしたデザインが、グッチやプラダ、ミュウミュウといったハイブランドの最新コレクションに相次いで登場している。

 火をつけたのはストリートだけではない。BLACKPINKのリサが愛用している姿がキャッチされると、その写真は瞬く間に拡散し、インスタグラムでも「#RetroSneakers」「#OldSchoolRunning」がトレンド入りした。レトロムード漂う一足をシンプルなコーディネートに効かせるスタイルが、いまやセレブから一般ユーザーにまで広がりつつある。

ハイブランドが仕掛ける「古き良き」スニーカー

 これまでスニーカー市場を牽引してきたのはナイキやアディダスといったスポーツブランドだった。しかし近年はハイブランドが積極的に「クラシック」を打ち出している。

 グッチは70年代のトレーニングシューズを想起させる細身のシルエットに、現代的なソールを組み合わせた新作を発表。プラダはアーカイブから着想を得たテニスシューズを再解釈し、上質なレザーで仕立てている。さらにミュウミュウはユーズド加工を施したキャンバス素材のランニングスニーカーを投入。新品でありながら「履き込んだ味わい」を表現する手法で、若年層のハートを掴んでいる。

 取材に応じたファッション編集者、三澤和也氏はこう解説する。「ハイブランドは“スニーカー戦争”に本格参戦したといえます。ただし狙っているのはパフォーマンスではなくライフスタイル。ラグジュアリーの文脈で過去を再解釈することで、シンプルな服装に一点差し込む『垢抜け効果』を消費者に提供しているのです」

SNSで拡散する「懐かしさと新しさ」の融合

 SNSでの盛り上がりは凄まじい。リサのほか、アメリカやヨーロッパのインフルエンサーも次々とレトロスニーカーを取り入れ、「ジーンズ+白T+レトロスニーカー」といったシンプルコーデを披露している。フォロワーからは「懐かしいのに新しい」「母が昔履いていた靴に似てる!」といったコメントが寄せられ、世代を超えた共感を呼んでいる。

 三澤氏は次のように語る。「レトロスニーカーは“記憶”を呼び起こすアイテムです。80年代を知る世代には懐かしさを、Z世代には新鮮さを。それぞれの文脈で響くからこそ、SNSでここまで拡散しているのでしょう」また、レトロスニーカーは“盛りすぎない”スタイリングにマッチする点でも支持を集めている。ミニマルな服装のアクセントとして一足加えるだけで、抜け感とストーリー性を同時に演出できる。

「回帰」は一過性か、それとも定着か

 もちろん「リバイバル=一時的」との見方も根強い。しかし業界関係者の間では、今回の流れは単なるトレンド以上の意味を持つとみられている。編集者は強調する。「スニーカーの市場はこれまで“未来志向”一辺倒でした。軽量化や最新素材が注目されるなかで、逆に“昔っぽさ”が希少価値になった。今後もレトロは一定の位置を保つでしょう。ただしハイブランドが参入した以上、価格帯や希少性で差別化が進み、単なるノスタルジーでは終わらないはずです」

 事実、グッチやプラダのレトロモデルはすでに品薄状態で、リセール市場でもプレミア価格が付いている。レトロ回帰は、懐古趣味にとどまらず、ラグジュアリー消費の新しい形として根づく可能性がある。

 ファッションは時代を映す鏡だ。AIやデジタルといった未来志向の言葉が飛び交う一方で、街では過去を映したスニーカーが脚光を浴びている。このコントラストこそ、いまのモードシーンのダイナミズムだろう。

 J.CrewのAI導入と同じく、グッチやプラダが仕掛けるレトロスニーカーも「次」を占う試金石である。70〜80年代を現代に呼び戻す一足は、単なるファッションアイテムを超え、世代や文化をつなぐ“時間旅行のチケット”として機能しているのかもしれない。

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