ハイブランドが仕掛ける“名作の再生” リブランディングの新戦略を探る
近年、ハイブランドのキャンペーンで際立っているのが、過去の名作を現代的に再解釈し、再びブランドの顔として打ち出すリブランディング戦略だ。定番バッグの復刻、新しいカラーリングをまとったシューズ、あるいは90年代に流行した香水の再リリースなど、「懐かしいのに新しい」ラインナップが続々と登場している。背景にあるのは、Z世代を中心とした「レトロ回帰」の潮流と、持続可能性を意識した消費トレンドだ。
名作復刻が生む「物語」と「安心感」
今季のグッチが打ち出したのは、1970年代のバッグをベースにした新コレクション。アーカイブの形を踏襲しつつも、素材にはリサイクルレザーを用い、現代的なエコ視点を反映させている。プラダは90年代に人気を博したナイロンバッグを再構築し、シルエットを現代的にアップデート。さらにシャネルやディオールも、過去の広告ビジュアルを再編集してSNSキャンペーンに展開するなど、各社がブランドの歴史を「今」の文脈に結びつけている。
こうした流れについて、ファッション編集者の三澤和也氏は次のように語る。「名作のリブランディングには“物語”があります。ブランドが歩んできた歴史を再提示することで、消費者に安心感や信頼を与える。同時に“過去を知る世代”にはノスタルジーを、“知らない世代”には新鮮さを届けられるのです」
実際、SNS上では「母が昔持っていたバッグを娘が今買っている」「親子で同じ香水を共有する」といった世代をまたいだ体験談が広がり、ブランドに対するエモーショナルな愛着を深めている。
「リブランディングの時代」にブランドが試されること
もっとも、単なる復刻では市場の熱は持続しない。デザインや素材、広告演出に「現代性」をどう組み込むかが成功の鍵となる。三澤氏は強調する。
「リブランディングは過去の栄光にすがる戦略ではありません。むしろ“今の時代にどう再解釈できるか”という挑戦です。消費者は懐古主義ではなく、歴史とモダンの交差点に魅力を感じています」
この観点で象徴的なのが、バレンシアガやルイ・ヴィトンのアプローチだ。前者はアーカイブのシルエットをベースにしながら大胆なロゴ配置やダメージ加工で「ポスト・ストリート」な表情を与え、後者はモノグラム柄をあえて解体・再構築し、従来のラグジュアリー観を刷新した。
業界内では「リブランディングの巧拙がブランドの未来を左右する」との声も出ている。懐かしさを前面に押し出すだけでは“コピー商品”と変わらず、逆に大きく逸脱すれば“名作の破壊”と批判される。その狭間で、ブランドのクリエイティブチームは緊張感を持って舵を切っている。
過去の名作を呼び戻すことは、ブランドにとって歴史を「資産」として活用する行為であると同時に、時に「重荷」ともなる。消費者が抱く期待値は高く、満足させられなければ逆効果になりかねない。だが三澤氏は前向きに見る。「ファッションは常に循環します。リブランディングはその循環を意識的にデザインする試み。名作が次世代の価値観にフィットしたとき、ブランドは単なる流行を超え、文化的な存在へと昇華するのです」
“リブランディングの時代”は、過去と未来をつなぐ架け橋だ。ハイブランドの新キャンペーンは、単なる復刻の枠を超え、ファッションにおける「時間の使い方」そのものを問い直している





















