【漫画】在庫管理に発注作業、バイトの責任はどこまで？ 職場のリアルな距離感を描く『ふりをした』
在庫管理に発注作業、新人教育にイレギュラー対応。改善の兆しも上昇の気配も見えず日常が繰り返されればうんざりすることもあるだろう。Xに8月上旬に投稿された『ふりをした』は、カフェでバイトをするうだつが上がらない男性・玲央と女子大生・若菜が織り成す物語で、ついつい玲央に共感したくなる瞬間が多い。
無糖コーヒーを飲みながら読みたくなる、苦味が効いた本作の作者・澤島ヨウさん（@swsm\_y）に、本作を制作した背景など話を聞いた。（望月悠木）
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コーヒーの知識はどこから？
――今回『ふりをした』を制作した背景は？
澤島：今年の4月から『ピクチャーブライド 〜海を渡って恋となれ〜』（KADOKAWA）の連載が始まり、それから2か月経った時、ふと「久々に『コミティア』に参加したい」と思いました。そこで11月24日開催の「コミティア154」で発表する新作漫画として制作したのが本作です。
――カフェを舞台にした2人の男女の物語でしたね。
澤島：前職がカフェ店員で、その時の職場の雰囲気を取り入れて漫画の舞台にしました。ただ、「普通のカフェでは店員同士の会話が弾まなさそうだ」と思い、オフィス内にあるいわゆる「社内カフェ」に設定変更しました。
――コーヒーの知識も描かれていますが、カフェ店員時代の経験が生かされているのですね。
澤島：そうですね。カフェ店員時代に身についた知識でもありますが、もともとコーヒー好きで、自宅でも手挽きミルとハンドドリップでコーヒーを淹れるくらいには強い興味と関心を持っていました。
――メインの2人はどのようにして生まれたのですか？
澤島：玲央は好きなバンドのボーカルさんを、若菜は今年1月に制作した趣味のイラストから、それぞれアレンジを加えてキャラクターデザインをしました。
キャッチフレーズは「《大丈夫》じゃない漫画」
――2人の絶妙な距離感は“バイト先らしさ”があり、リアルに描かれている印象でした。
澤島：性別や年齢差から生じるコミュニケーションの取りづらさを意識して仕草や表情などを描いています。特に玲央は“自分を誤魔化すのが上手いタイプ”なので、言っていることと考えていることがチグハグだったりします。しかし、「それはそれで人間らしさが出るのではないか」と思っています。
――セリフで言えば、1ページ目の「寝起きで～」というセリフはハードボイルドでしびれました。
澤島：お恥ずかしながら、その場面は別の職に就いていた時の自分の朝のルーティーンをそのまま描いています。今はタバコはやめましたが……。当時の環境のまま、毎日押し寄せてくる“クソッタレな日々”に染まっていたら、「どんな風に朝を感じていたか」を想像しながらモノローグを描きました。
――まだ1話のみの公開ですが、今後はどのように展開されるのですか？
澤島：構成は各話10ページ、全3話の連作読切です。“序破急”の叙述形式に則って物語が展開していきます。すでに全て描き終わっているので、あとは公開のみとなっています。
――どのようなストーリーが繰り広げられるか、差し支えない範囲でお聞かせください。
澤島：玲央と若菜の関係性を中心にストーリーが進んでいきます。『コミティア』に申し込んだ際の本作のキャッチフレーズは「《大丈夫》じゃない漫画」です。「大丈夫」という言葉や状態について考えるお話になります。
――ちなみに、なぜ全3話の作品にしたのですか？
澤島：以前、別の編集部とやりとりしていた時、そのような読切形式があると聞いたことがあり、今回挑戦してみました。“序破急”形式で物語を描けるため、通常の読み切りよりも中だるみせず、案外やりやすいと感じています。読む側としても、「話が小分けになっていると、暇つぶしや隙間時間にパッと読みやすいのではないか」と思います。それこそWeb漫画に向いている形式だと思います。
――本作の制作過程をPIXIV FANBOXで紹介していますね。
澤島：漫画だけでなく、文章を書くのが好きなので、備忘録を兼ねて息抜きに書いてみました。あとはこの記事を読んだ「漫画を描こうとしている人」「漫画を描いたことのない人」に、ぜひ「オリジナル漫画を描いてほしい！」という下心もあります。
――最後にこれからの漫画制作における目標など教えてください。
澤島：現在連載中の商業漫画に注力しつつ、趣味の漫画も描きつつ、挑戦したことのないテーマや題材について順次取り組んでいけるのが理想です。とはいえ、まずは目先の原稿を仕上げることに集中しなければなりませんね。
また、宣伝にはなりますが、現在連載中の『ピクチャーブライド 〜海を渡って恋となれ〜』のコミックス1巻が9月8日に発売予定です。20世紀初頭、「写真花嫁」として渡米した女性が、夫となる男性と反発し合いながらも愛情を深めていく「結婚から始まる恋物語」です。『ふりをした』とは方向性が違う男女のお話ですが、どちらも「微妙な距離感のふたり」のお話ではあるので、こちらも気に入ってもらえると嬉しいです。
(c)澤島ヨウ
■『ふりをした』の制作過程：https://swsm-y.fanbox.cc/posts/9968553
■『ピクチャーブライド 〜海を渡って恋となれ〜』1話：https://comic-walker.com/detail/KC_006492_S/episodes/KC_0064920000200011_E
