【漫画】90歳の父、食卓で不便な席に座るのはなぜ? 家族愛を描く漫画『父と暮らす』が泣ける

――今年から専用アカウントで投稿されていますね。
深谷陽(以下、深谷):もともと好きに描くつもりでした。でも「今後もし出版などの展開があるなら、専用アカウントがあると見やすいよ」というアドバイスもあり、このスタイルで発信を始めたんです。自分の個人アカウントが乗っ取りにあったりとか大変なこともありましたが、着実に伸びるようになってきているなという実感がありますね。
――どういった反響がありますか?
深谷:高齢者との同居、そして猫についてはコメントが多いですね。まだ介護といった状況ではないのですが、90歳を超えた父の出来ることが減ったりはしていて。それをサポートする生活に共感を覚える方は多いのかもしれません。
あとは父との生活を漫画にすることで、イラついたり悲しく思ったりする自分を客観視できるのは個人的に有益だなと感じています。
――お父様との生活を漫画にしようと思ったきっかけを教えてください。
深谷:3年ほど前、母が亡くなったタイミングで実家に戻りました。もともと自分の暮らしを漫画にしていたので、いずれ父とのことも描きたいなとは考えていたんですよ。ただ始めるならコンセプトをしっかり立てて、企画として持ち込みたいなというイメージでした。
それからリビングの母が座っていた場所に僕が座るようになったんです。その場所はテレビが見やすく、エアコンの風も直接当たらない位置だったので、父に座るように勧めたんですよ。その時に父が言った「仏壇はここが見やすいんだよな」という一言が刺さったんです。
座り心地よりも母の仏壇が見えるのを優先していること、そして座り心地のいい席を母に譲っていたんだ、ということに気付かされたんですね。物語のセリフみたいで、これは書き留めておきたいなと。それを形にしたのが本作の第1回目でした。
――なるほど。
深谷:最初は日々の何気ないことを描いただけのつもりだったんです。決まっているのはタイトルと日常を描くことくらい。でも最初の1回を投稿したときに、いいねが10000手前くらいまでいったのかな。あれは思いがけない反応でしたね。それを機に2話目、3話目と続けていきました。
今では読んでくれた人のリアクションを見ながら、自分の描きたいものが浮かんでくる感じです。アイデアをしっかり温めるのもいいけど、「今日はこれを描こう」と思い付いたものをすぐ形にするのも大事だと気付きましたね。その時の無理ないペースで描いていますよ。
――ご自身で印象に残っているエピソードはありますか。
深谷:父と生前の母の見舞いに行った時の回ですね。母を家に連れて帰りたかった父の「一晩だけでも」という発言の「も」だけが涙声になった瞬間が忘れられなくて。泣く姿も見たことなかったですから、僕にとって印象的なエピソードでした。
――今はどういう制作スタイルなのでしょう?
深谷:現在は連載もないので家事がメインになってしまっていますね。あとは福島県から週2回は東京の学校で授業を持っているので、その合間で制作してます。
――教育にも思いがおありなのですか?
深谷:もともと「クセの強い作品を描いている自分が他人に教えられることは何もない」と思っていました。でも実際に他人の作品を見ると「もっとこうした方がいい」と感じる何かがあることに気付いたんですよ。それからは教えるのが楽しくなって、生徒に自分の言葉が響く瞬間がやりがいになってます。プロの方でも相談に来てくれたりしますね。
――今後の展望についても教えてください。
深谷:引き続き『父と暮らす』を続けつつ、父が元気なうちに書籍化まで出来たら嬉しいですね。あとは5年ほど前に出版した入門書『もっと魅せる・面白くする 魂に響く 漫画コマワリ教室』の続編も執筆中です。新しいオリジナル漫画の構想もしていけたら。






















