『Fallout4』にラヴクラフト……蒼月海里の創作の源とは? 『星空都市リンネの旅路』刊行記念インタビュー

作家・蒼月海里の創作の源とは

「神様であろうとアイドルであろうと、解釈違いは起こりうる」

――「亡くなった人も、誰かが覚えている限り、概念の世界で生き続ける」とお話しされていましたが、今作における信仰は「信じているから、在る」だけではない、物理的にも手触りのある創世の物語であるところが、おもしろいなと思いました。

蒼月:人々が信仰することを忘れたときが神にとっての死である、というのも一つの真理だと思うんです。そのほうが、エモくて切ない物語にもなりうる。だけど、せっかくSFであることを許されたからには、概念にとどまらない神様、というのを追求してみたかった。だから今作の神様にはきちんと肉体ももたせています。最初から物理的にも存在しているため、忘れられたからといって死なない。忘れられることで死ぬのならば、ある意味、人間と「お互いさま」の関係になるのですが、本作の神様は特にそういうこともなく、圧倒的に有利な立場になっていますし、明確な意思もあります。そのうえで、神様の意思と人々の信仰のかたちが必ずしもマッチするわけではない、ということも描きたかったんですよね。ほら、ファンがアイドルを推している理由と、アイドル自身の自我って、必ずしも一致しないでしょう。神様であろうとアイドルであろうと、解釈違いは起こりうるよなあということは、書けて楽しかったことの一つですね。

――ファンタジーではなく、SFとして物語を書いたことで、これまでとは違う手ごたえはありましたか?

蒼月:科学的な裏づけに基づいた小説を書けた、というのがやっぱり嬉しかったです。理系の学部出身ということもあり、魔法のようなことが起きるよりは、因果はハッキリさせたいタイプなので。

怪談・オカルト話にも花が咲いたが、理系出身ということもあってか、SF設定はかなりロジカルに詰めているようだった。

――ああ、だからでしょうか。蒼月さんは、偶然や運命を信じすぎていない描き方をされますよね。キリが過酷な状況を生き延びたことについて「俺は、自分が選ばれたと思いたくない」と言う場面があります、特別な人間ではないからこそ特別のように舞い込んだ幸運を大事にできる、という彼の姿勢がとても好きでした。

蒼月:それは、私の実感が滲み出ているのかもしれませんね。実は、蒼月海里としてデビューする前に、別名義で一冊、本を出したことがあるんです。でも、あまり売れなかったからか編集部と音信不通になってしまい、他の出版社に営業をかけてもどうにもならず……間の悪いことにリーマンショックで職を失い、貯金も底をつきかけて、本当に、死の足音が聞こえてくるような心地がしました。でも、だったら死ぬ前にやりたいことをやろう、まずは売れる本とはなにかを追求してみようと、書店で働き始めたんです。最初はビジネスフロアのレジ打ちでしたが、やがて文芸・文庫フロアの配架にまわされたことで、「売れる」とはどういうことか手にとるようにわかるようになりました。

――法則が見えた、ということですか?

蒼月:というよりも、キリが言うように、誰かから選ばれるというのは……売れるという現象は、その人が特別だから起きるわけではなく、さまざまなめぐりあわせによってなるものなのだということがわかった、という感じですね。その後、とある賞に応募した際、受賞には至らなかったものの編集部から声がかかり、新たに小説を出せることになったのですが、書店で働いていたおかげで、当時どんなものが好まれているかの傾向をつかんでいたため、売れる可能性のある小説を書くことができました。結果、大きな賞の受賞者でもない新人のデビュー作なのによく売れたのですが、それもたぶん、努力したタイミングと風が吹くタイミングがちょうどよく合致したからだろうな、と思っているんです。

――努力と偶然、そのどちらもが必要だったと。

蒼月:そうですね。今、私が小説を書き続けていられるのも、めぐりあわせがよかった結果であって、特別な存在だからではない。だから、努力することをやめてはいけないし、幸運に感謝することも忘れてはいけない。そのうえで、自分に誇れる仕事をしたい。そういう謙虚な気持ちを抱き続けなければ、この先もきっと生き抜いてはいけないと思っていることが、キリのセリフにも反映されたのかもしれません。

――リンネとキリの旅はまだまだ続きそうな気配です。続編のご予定は?

蒼月:書いていいのならば、いくらでも(笑)。「MPエンタテイメント」でSF小説は初ということなので、ちょっとプレッシャーも感じていますが、好きなものをふんだんに詰め込んだので、書いていて本当に楽しかったんです。リンネとキリと一緒に心を躍らせながら、読んでくださるみなさまもこの世界を旅してくださることを祈っています。

蒼月海里 最新刊『星空都市リンネの旅路』は8月20日発売

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