白石晃士監督 × 背筋『近畿地方のある場所について』対談「人知を超越したものを描くのが好きなんです」

白石「結局は分からないというホラーをやりたい」

白石:恐怖というのは根本的な感情ですから、テクノロジーが移り変わっても変化するものではないと思っています。ただ情報や世界の捉え方は、時代とともに変化しますから、そこはリアリティを出すためにも無視できない。たとえばスマホは生活には欠かせないインフラになっていますよね。身近な存在として、それは活用するべきだろうと。といってもおっさんなんで(笑)、最先端のテクノロジーを使いこなせるわけじゃないんですが、できる範囲で作品に取り入れるようにはしています。

――複数の怪談の背景には、より大きな怪異が存在している……というのが原作にも映画にも共通する『近畿地方のある場所について』の世界観です。幽霊やモンスターではなく、人知を超えた現象を描くということについて、お二人のお考えをぜひ聞かせてください。
背筋:私が好きなのは“大いなるもの”なんでしょうね。その時々で幽霊に見えるかもしれないし、別の何かに見えるかもしれない。でもその背後にはそれこそ現象のようなものがある、というホラーに燃えるタイプで(笑)。白石監督の作品が好きなのも、そういうものを描いてくれるからだと思います。
白石:私も神のような、人知を超越したものを描くのが好きなんです。人間の価値観を理解することもないし、人間に都合のいいふるまいをすることもない。そういう存在が怖いなと感じるんです。人間の幽霊が出てくるだけじゃ映像として価値を感じないというか、「たかが人間じゃん」と思ってしまう(笑)。幽霊でも背筋さんのいう“大いなるもの”の気配が感じられればいいんですけどね。周辺情報から怪異の輪郭が見えてくるんだけど、結局は分からないというホラーをやりたい。許されるかぎり、そうした表現の極限を目指していきたいです。

白石:映像の世界だとJホラー映画的な表現が世界に広まって、それが一般化した先に、新しい表現が生まれてきている。ひとつの方向性じゃなく、各国でいろんな表現が生まれているのが面白いところだなと感じています。日本においては怪談ブームがあり、一方でモキュメンタリー的な映像が人気ですが、そこに共通しているのは現実感なのかなと思います。それはそれで面白いと思うんですが、自分は「映画はロマンだ」と思っていて、ホラーにもロマンをやっぱり求めているので、最近流行っているリアル路線のホラーとは違った形で、恐怖を表現していきたいと思っています。
背筋:ホラーがブームなのか、ブームだとしたらその背景に何があるのか、「分からない」というのが正直なところです。たとえばタピオカがなぜあれだけ流行ったのか、社会的な背景を分析できる人はいないと思うんですよね。時代の空気を察知した人が売り手になって、売り場がたくさんできることで、消費行動が刺激される。それ以上でもそれ以下でもないので、ブームに左右されることなく、自分が好きなもの、書くべきものをこれからも流されずに書いていきたいです。
■関連情報
『近畿地方のある場所について』
8月8日 (金) 全国公開
原作:背筋「近畿地方のある場所について」(KADOKAWA)
出演:菅野美穂、赤楚衛二
監督:白石晃士
脚本:大石哲也 白石晃士
脚本協力:背筋
音楽:ゲイリー芦屋 重盛康平
主題歌:椎名林檎「白日のもと」(EMI Records/UNIVERSAL MUSIC)
配給:ワーナー・ブラザース映画
オフィシャル:公式サイト KINKI-MOVIE.JP/公式X @kinki₋movie
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