『ファンタスティック4:ファースト・ステップ』マーベル・コミックスの初期ヒーローは原作でどう描かれた?

ファンタスティックフォー、原作を読む

 現在公開中の映画『ファンタスティック4:ファースト・ステップ』。家族型のヒーローチームである点を押し出したストーリーと、レトロなディテールが目をひく内容の映画だ。この映画の題材となったファンタスティック・フォーは、幾多のヒーローがひしめくマーベル・コミックスの中でも古参と言っていいヒーローチームである。

 ファンタスティック・フォーが登場したのは1961年。ジョン・F・ケネディが大統領に就任し、ユーリイ・ガガーリンが初の有人宇宙飛行に成功した年である。特殊能力を持つ4人のヒーローを主人公としたこのコミックは、人類が宇宙へ本格的に進出を始めた年に生まれた。

 現在マーベルコミックスとして知られている出版社は、マーティン・グッドマンが1939年に創設したタイムリー・コミックスに端を発する。当時新興メディアだったコミックブックに着目したグッドマンは、キャプテン・アメリカ、サブマリナーといったヒーローを題材にしたコミックを次々に出版。大いに人気を博した。ヒーローコミック人気が落ち着いた1940年代後半以降は西部劇やホラー、戦争ものといったジャンルに進出し、1951年にはアトラス・コミックスにブランド名を変更。そしてグッドマンは1950年代後半からのヒーローコミック人気再燃を受け、アトラスの編集長であるスタン・リーに新たなヒーローを作り出すことを命じたのであった。

 この指示を受けてスタン・リーが生み出したのは、パルプ雑誌の影響を受けたクライムファイターでもなければ、地球に現れた宇宙人でもなく、古代の神々をモチーフとしたヒーローでもなかった。タイムリー・コミックス時代から組んで仕事をしていたジャック・カービーとともに作り上げたキャラクターは、ソ連に対抗するべく宇宙へ飛び出し、宇宙線の影響で体が大きく変化しスーパーパワーを得た4人の男女だったのである。この4人はリアルで人間味のある関係性で結びついており、そこに当時のアトラス・コミックスの人気ジャンルであった巨大モンスターもののテイストもプラスされた。ファンタスティック・フォーの登場である。

 1961年の夏頃からアトラスは「マーベル・コミックス」というブランド名を使い始めており、ファンタスティック・フォーはブランド名が改まったところで刊行を開始した新時代のヒーローでもあった。その特徴は、4人が科学者や宇宙飛行士だった点にある。これは人類が本格的な宇宙時代を迎え、しかしまだアメリカがベトナム戦争の泥沼に脚を踏み入れる直前だった、1961年という時代の空気にフィットした選択だったのだろう。探偵でも神でもなく、宇宙線という科学的理由によって授かったスーパーパワーと頭脳で戦うヒーロー像を提示したファンタスティック・フォーは、当時の読者にとって革新的だったはずだ。

 また、科学者リード・リチャーズ(Mr.ファンタスティック)を中心に、その婚約者であるスーザン・ストーム(インビジブル・ウーマン)と弟のジョニー・ストーム(ヒューマントーチ)、そしてリードとスーザンとは長年の友人であるベン・グリム(ザ・シング)という4人組のキャラクターも、異色のものだった。4人は派手でカラフルなコスチュームを着ておらず、ザ・シング以外は揃いのユニフォームで統一。さらにその能力や見た目も型破り。手足が伸びるMr.ファンタスティックはもとより、全身が燃えるヒューマントーチ(過去に同名、同能力のキャラクターは存在した)、そして見た目からして怪物じみているザ・シングといったキャラクターは、従来型のスマートなヒーロー像とは大きく異なっていたのである。

 そんな彼らが、疑似家族的な関係を築き、時に口論しながらも悪と戦う。それまでのヒーローコミックではあり得ない描写を盛り込んだ異色作だったファンタスティック・フォーは読者の評判を呼び、1960年代に数多く生み出されたマーベルの新ヒーローたちへとつながっていくことになる。時代ごとのトレンドを汲みながらそれまでとは異なるヒーロー像を提示してきたマーベルの基礎を築いたのは、ファンタスティック・フォーなのである。

 加えて、対戦相手も特徴的だ。刊行当時の最初のエピソードで対戦したのは、人間社会に対する恨みから地底に帝国を築き復讐を企てるモールマン、そして彼が使役する巨大なモンスター軍団だ。ファンタスティック・フォーは犯罪者やファシストの兵士ではなく、刊行当初から荒唐無稽でSF的な悪玉と戦ったのである。続いて刊行開始の翌年である1962年には、のちにマーベルを代表するヴィランとなるDr.ドゥームが登場。さらに1966年には、惑星のエネルギーを食べて生きる超宇宙的存在であるギャラクタスが出現。ヒーローに対抗するヴィランに関しても、従来の常識を打ち破るスケールの大きいキャラクター像を次々と展開している。

 映画『ファンタスティック4:ファースト・ステップ』のディテールは、このようなファンタスティック・フォーの出自や特徴を背景としている。映画内のガジェットや各部デザインの雰囲気はミッドセンチュリー/スペースエイジ的な様式に統一されており、それはもちろんファンタスティック・フォーが1961年という科学万能の時代に生まれたヒーローであること、科学者を中心としたチームであることを踏まえた結果だろう。

 2025年に生きている我々にとって、1961年は64年前。体感的には「かなり昔」といっていいほどの時間的隔たりがある。この隔たりも手伝って、『ファンタスティック4:ファースト・ステップ』は相当にノスタルジックな味わいの映画となった。言ってしまえば「スーパーヒーロー映画版『三丁目の夕日』」的内容であり、社会に対する今日的な問題意識を問うた内容とは言い難い。

 とはいえ、『ファンタスティック4:ファースト・ステップ』がファンタスティック・フォーというエポックメイキングなヒーローチームの背景を踏まえて作られた作品であることは間違いない。映画を見て64年前にいったいどのようなコミックが刊行されたのか確かめたくなった方には、小学館集英社プロダクションより刊行されている『ベスト・オブ・ファンタスティック・フォー』をおすすめしたい。スペースエイジの溌剌とした空気がみなぎるその内容は、一見の価値ありだ。

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