あと10年で“人工意識”を実証できる? 神経科学者・渡辺正峰が語る、デジタル不老不死の可能性

あと10年で“人工意識”を実証できる?

死にたくない人が死なずに済むようになればいい

渡辺正峰

ーー「意識のアップロード」が可能になったとして、私たちは現実的にどれくらいのコストを考えればいいでしょうか。

渡辺:『銀河鉄道999』のように、富める者のみが永遠の命を享受できるような世界はまったく望んでおらず、私がコントロールできる範囲においては、中古車一台分くらいのコストにしたいと考えています。ただ、それでは応募者が殺到するので、まずは国立大学附属学校のように抽選にしようと。もっとも、実現に向けて協力いただけるお金持ちの方がいれば、今だったら優待券を差し上げようと思いますが(笑)。

ーー現実的なお話ですね(笑)。本書にも多くの作品の名前が出てきますが、SF的な想像力は現実の科学を推進させる大きな要素になっていると思わされます。

渡辺:そうですね。『マトリックス』と同じ1999年に『13F』という映画が公開されており、こちらは現実世界と仮想世界の間で意識が行き来する内容ですが、原作小説の『Simulacron-3』は60年代(1964年)に刊行されています。私自身は特定の作品に影響されて研究を始めたというわけではないのですが、純粋にすごいなと思います。近年の作品では『三体』にも「意識のアップロード」に近いことが描かれており、その描写が潔くて面白かったですね。

ーー特段影響を受けたということではなく、好きなSF作品はありますか?

渡辺:たくさんあります。私は1976年から81年まで、父の商社の関係でロサンゼルスにいました。『スター・ウォーズ』が公開された77年、グローマンズ・チャイニーズ・シアターに観に行ったのですが、映画館の周りを観客の列が何周もしていて、当時は予約システムもなかったものですから、2回くらい上映を待たないと入れませんでした。日本の比じゃない『スター・ウォーズ』の洗礼を受けているので、今も思い入れがありますね。あとはエンディングまで素晴らしい『ブレードランナー』でしょうか。日本の作家では、野尻抱介さんのSF小説も大好きです。

ーー渡辺先生が思い描く究極的な未来についても、あらためて聞かせてください。

渡辺:自分自身はどちらかと言うとこぢんまりやりたいと考えており、自己中心的ですが、意識を科学的に解き明かして、死にたくない人が死なずに済むようになればいいなと。つまり、現世をどうにかしたいという思いはあまりないんです。世界の片隅にAmazonのロジスティックセンターのようなものがあって、電気は食うけれどそこでひっそり暮らしているくらいがいい。ただ最後の最後、人類の滅亡を考えると、地球から脱出したいですね。野尻抱介さんも小説で書かれていましたが、宇宙人が地球に来るとしたら、小さな機械としてだろうと思います。生モノの身体で恒星間宇宙旅行はほぼ不可能ですが、意識をアップロードした機械としてなら、光速に近い速度で宇宙を航行することができる。もっとも、「デジタル不老不死」という言葉は使っているものの、人生の数十倍、1000年や2000年を生きることが想像できますが、100倍になるとさすがに想像ができず、いずれは一定期間計算を止めながら、時々覚醒するようになるのではと。宇宙人がメンテナンスしてくれることが前提になりますが、そうすると「宇宙の終わり」も意外とすぐに訪れるのかもしれません。

 ……と、私にとっては「意識」を解き明かすこと、人工意識を作って重たい扉を開きたい、というのが何より重要で、正直に言うと、その先のことはやや投げやりに考えているかもしれません(笑)。

ーーいずれにしても『意識の不思議』は、そんなSFのような未来も現実的なものとして考えさせてくれる一冊です。あらためて、手に取った読者に伝えたいことは。

渡辺:一番はタイトルの通り、「意識」の本当の定義と、その難しさを知っていただきたいと考えています。宇宙の果てまでいかなくても、あなたの頭の中にとんでもない不思議がある。そして、これまでは哲学的にも科学的にも解き明かせないと考えられていたものが、解き明かせる可能性が出てきているということ。そのなかで「意識をアップロードする」という研究に関心を持っていただけたらうれしいですね。

■書誌情報
『意識の不思議』
著者:渡辺正峰
価格:990円
発売日:2025年6月11日
出版社:筑摩書房

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