【漫画】すべての本には妖精が宿る? 紙の書籍のあたたかな手触りを感じる『本の妖精』

【漫画】すべての本には妖精が宿る?

「できればどの作品も誰かの心に残ってほしい」

――今回『本の妖精』を制作した背景は?

yum:実は6年ほど前に描いた作品です。当時「音楽や漫画、映画などの“作品”が次から次へと誕生しては埋もれていくスピードが早いな…」と感じており、それと同時に「長年かけてpixivで連載していた作品『洗濯荘の人々』もいつか忘れられるんだろうな」と寂しく思ったことがキッカケで制作しました。

――「本には妖精が存在する」という切り口はどう思い付いたのですか?

yum:昔から日常の中にファンタジー要素のある作品が好きで、何にでも「まずは妖精を…」みたいなところがありました(笑)。妖精は自分の中で「何かのタイミングですぐになくなる儚いもの」「ずっとそばにいてくれないもの」と思っており、この切り口になりました。

――そんな妖精と一人の女性の人生が重なり合うストーリー展開でしたね。

yum:「誰か1人はきっと見ていてくれる」という“希望”が本屋さんの彼女だったのだと思います。私も曲がりなりにも漫画やイラストなどの作品を描いている人間です。私だけではなく誰でも作品は一生懸命作っているものなので、「1人くらい熱烈に覚えててくれる人がいてくれたら救われるよね!」みたいな気持ちから、このストーリーになりました。

――「売れなくなる=存在が無くなる」という残酷な現実を示すストーリーでもありましたが、ストーリーを描くうえで意識したことは?

yum:これだけたくさんの作品が世の中に溢れている状況だと、新しいものが埋もれていくのはもはや当たり前です。作品を作っている以上はいつかは忘れられるため、「できればどの作品も誰かの心に残ってほしい!」とひそかに思いを込めました。

――また『オレンジの指輪』の妖精は可愛らしいビジュアルでしたね。

yum:妖精を見て「本の妖精だとわかるビジュアルを意識しました。なので「本を背負っとけばわかるだろう」と考え、あとは「可愛い動物さんにしよう!」みたいな感じでデザインしています(笑)。

本を手に取った時のワクワク感

――電子書籍が普及し、紙の本を保有する人は減っているように思います。こうした現状をどう見ていますか?

yum:すごく寂しいと思います。私自身さほど本を読むタイプでもないのですが、それでも本屋さんの雰囲気、本を手に取った時のワクワク感などは、本があるからこそ得られる魅力的な体験は多いです。あと図書館とかでも「どれを読んでもいいよ」という“待ち構え感”のワクワク感は本ならではだと思います。

――電子書籍では得られない感覚ですよね。

yum:そうかもしれませんね。良くも悪くも電子書籍の普及がたくさんの作品を生み出し、埋もれるスピードを上げているのかもしれないと思います。とはいえ、「気軽に読める」「データとして手元に置いておきたい」といったメリットも多いので、「これもまた時代が進んだ」ということなのでしょうね。

――また、本屋自体も減っている状況はどう感じていますか?

yum:手に取って買うか考えて、やっぱり買って家に帰って読んだ本って内容とかすごく覚えているんです。「自分で手に入れた」という感覚がそうさせるのかもしれません。ただ、それも本が主流だった時代を生きてきたから思うことなのでしょう。本屋が減り、そういった経験が減っていってしまうのは残念です。

――本作は6年前に描いた作品とのことですが、読み返してみての感想は?

yum:作品を描いた時は勢いで描き、勢いでネットに載せて、みたいな感じで、自分の作品が面白いかどうかはよくわかっていませんでした。ただ、改めて読み返してみて「昔の私、良い話描いてんじゃん!」と嬉しくなって今回Xに載せました。自画自賛ですが、「さすが自分の好きなように描いただけあっていい話」だと思います(笑)。

――今後はどういった作品を描いていきたいですか?

yum:先述した『洗濯荘の人々』をなんとかこの世界に残したい、できれば本としてと…という野望があったのですが、なかなか難しくて野望止まりです。また、昔の作品を読み返したらいい物語がたくさんあったので、リメイクなんかもしたいです。ただ、新しい作品も描いて、また5年後くらいに「私めっちゃいい話描いてるじゃん」って思い返せたらいいなと思っています。

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