【漫画】『国宝』小説とも映画とも違う喜久雄の姿とは? 漫画家・三国史明「漫画にしかできない表現を」

喜久雄に自分の経験を重ねた
――三国先生が好きなシーンはなんでしょうか。

三国:第2話で、喜久雄がこぶしを握って「上等や」と言うシーンです。自分は、喜久雄のような壮絶な体験をした訳ではありませんが、この場面を描いていた時に、自分が望んでいない道を強制的に歩まされることになった喜久雄の悔しさを、自分の過去の経験に重ねてしまいました。
これから一人でやっていかないといけない、何が何でも頑張らなければならないという気持ちに、自分が10代のころに感じたやるせない気持ちを投影してしまいます。もっとも気合いが入って描けた場面かもしれません。
先ほど「なかなか理解できない」と言いましたが、喜久雄に共感できる部分ももちろんありました。どんな状況でも、何が何でもやるしかないところです。そして、その状況に置かれたときには俊介とは仲良くできないだろうなと言う私の考えを、漫画の表現に投影しています。
――本作を漫画で絵として表現する際に、こだわっているポイントはありますか。
三国:3巻で幸子さんが喜久雄に怒りをぶつけるシーンがあるのですが、髪の毛を蛇のように表現したりにしたり、墨絵のようにおどろおどろしくさせたりとか、漫画ならではの表現の工夫をしています。
もともと墨絵は描いたことがなくて、知識もない状態でしたが、画集や展覧会などを見ながら試行錯誤して描いています。それでも、漫画は小説にはない視覚的な感情の表現が可能なので、こだわっている部分です。
――背景も緻密で、リアルです。
三国:背景は読者のみなさんからも評価いただいていますが、アシスタントのみなさんが本当に有能で、いつも助けていただいています。作品の舞台が昭和なのですが、当時の建物があまり残っていないので、想像で補いつつ描いていただくことも多いです。
資料集めはアシスタントさんにご協力いただいています。例えば、当時のパチンコ屋さんもアシスタントさんが描いてくださっているのですが、歌舞伎に関することはもちろん、昭和の文化などももっと調べたい気持ちはありますね。
漫画にしかできない表現に挑戦したい
――読者に向けてメッセージをお願いします。
三国:小説や映画を見て、漫画を手にした読者の方も多いと思います。小説も映画も本当に素晴らしい作品だと思いますので、漫画にしかできない表現や心理描写を大切にしながら、より深く楽しんでいける物語を創作していきたいと思っています。
私自身も漫画家として、これからもっと死に物狂いで頑張っていきます。
©️吉田修一・三国史明/小学館



























