『僕には鳥の言葉がわかる』や『土と生命の46億年史』がノミネート 科学書の芥川賞「講談社科学出版賞」の意義とは?

科学はとてもワクワクする、魅力にあふれた学問

科学出版賞は、毎回前年の4月1日から3月31日までの一年間に刊行された一般向けの科学ジャンルの啓蒙書を対象にしている。
毎年2月から3月にかけて、過去一年間に刊行された数多くの科学書のなかから、選考に回す100冊近い書目が選ばれる。こんなにも多くの科学書が毎年刊行されていることに驚きだ。この段階でかなり慎重に、科学ジャンルの一般向け啓蒙書といえるかどうかについて議論が重ねられる。その後、さらに3カ月かけて数十冊を精査し、最終選考会に残す5冊が決められていく。
事務局の山田は、「選考のたびにその書籍の内容の正確性や妥当性については熱い議論になります。その書籍の類書内容との比較はもちろん、ときには、書籍の中で紹介されている研究の原著論文や、著者の論文などまで読み込んだうえで、候補作としてふさわしいかを話し合っています」と、選考の熱気を伝えてくれた。
科学出版賞受賞によって世間に注目されるようになった科学トピックには、どんなものがあったのか。ブルーバックス編集長の青木肇は、2024年に第40回受賞作となった、近藤一博『疲労とは何か』(講談社ブルーバックス)をあげてくれた。これは「疲労」と「疲労感」は違う、という導入から、「疲労のメカニズム」について科学的な視点から解き明かした本だ。

「誰もが経験していながら、実際には、疲労という現象がどのように起こるのかについては、これまであまり意識されていなかったと思うのですが、本書の受賞によって、こうした『疲労の仕組み』を意識する人々が増えたのではないかと考えています」。科学出版賞の受賞作には、大陸や宇宙といった壮大なテーマだけでなく、「疲れ」のような私たちの身近なテーマを扱った、生活意識を変えてくれるような一冊もあるのだ。
科学出版賞は、これまで一般読者に科学書を普及するという役割を担い、成果をあげてきたが、一方で課題もあるそうだ。青木は、その課題について「正直に言うと、『もっとこの賞の存在をより多くの人々に知ってもらうこと』だと思っています」とコメント。さらに「『宇宙はなぜ存在するのか』『生命はなぜ誕生したのか』といった『大きな問い』に答えようとする科学は、本来とてもワクワクする、魅力にあふれた学問であり、そういった研究をわかりやすく解説した一般科学書を、より多くの方々に紹介するための賞として、さらに広げていけたらと考えています」と続けた。
そんな思いのこもった賞が、今年も読者と科学の新たな出会いをつくり出す。
(文中敬称略)
■書誌情報
『宇宙はいかに始まったのか ナノヘルツ重力波と宇宙誕生の物理学』
著者:浅田秀樹
価格:1,100(税込)
発売日:2024年6月20日
レーベル:ブルーバックス
出版社:講談社
『僕には鳥の言葉がわかる』
著者:鈴木俊貴
価格:1,870円(税込)
発売日:2025年1月23日
出版社:小学館
『ダーウィン 「進化論の父」の大いなる遺産』
著者:鈴木紀之
価格:1,100円(税込)
発売日:2024年7月22日
出版社:中央公論新社
『大陸の誕生 地球進化の謎を解くマグマ研究最前線』
著者:田村芳彦
価格:1,210円
発売日:2024年4月18日
レーベル:ブルーバックス
出版社:講談社
『土と生命の46億年史 土と進化の謎に迫る』
著者:藤井一至
価格:1,320円
発売日:2024年12月26日
レーベル:ブルーバックス
出版社:講談社





















