『ONE PIECE FAN LETTER』はどう生まれた? アニメ制作の裏側を丁寧に紐解くガイドブックが凄い

『ONE PIECE FAN LETTER』はどう生まれた?

森佳祐の言葉からわかる"アニメーターの心得"

 アニメを映像として見せる上で設計図になる絵コンテについては、森が「䂖谷さんはコンテを切る時、キャラ表(設定画)をあんまり見ていないよね。それもいいことなんです」と言っているところが興味深い。コンテでガチガチに固めてしまうとアニメーターが縛られてしまう可能性が伺えるからだ。

 巧いアニメーターが揃っているからこそ、現場に任せられるということもあるだけに、すべてのアニメ制作でコンテはユルく描かれるべきとは限らない。それでも、森の「表情豊かなアニメにするには、いかにキャラ表から外れるかが大事」という言葉からは、その場面で何を見せたいのかを理解して描くアニメーターの心得のようなものが伺える。

 そんな作画については、森の他に作画監督の林祐己、メインアニメーターの柏熊信と齋藤浩登が参加したページから詳細に語られていく。絵コンテではラフに描かれていたカットが、より丁寧なレイアウトとして描かれ、それを作画監督が修正したものを元にアニメーターが原画を描く。ここで、レイアウトから作画までの間でも、表情や角度に変化が付けられてることが分かる。

 酒場で少女がウソップに言われたとおりに「とりあえず水」というシーンが、実際の作画とレイアウトとでは違っている。本屋のアルバイトがしゃがんでいる場面は、レイアウトではやや斜めからだったキャラが、正面で下から煽られるような絵になっている。さらに、画面には映らない下半身まで作画されていて、それが自然さに繋がっていることが指摘されている。1枚の画面、1つのカットにさまざまな試行錯誤があるということだ。

「演出」という、絵を描くアニメーターとは違った担当についてもしっかりとページが使われていて、「映像のクオリティを守る”最後の砦”」という言い方でその役割が紹介されている。レイアウトをチェックして作監修正に回すのも演出なら、場面に合った涙や汗の表現を決めたり背景をスライドさせてスピード感を出すようにしたりするのも演出の仕事。アニメーターたちによる最高の素材を調理して出す最高のシェフとも言えそうだ。

『ONE PIECE FAN LETTER』は、いつものTVシリーズとは少し違った雰囲気のキャラクターデザインも話題になった。担当は森だが、どのようなキャラにするかは䂖谷が任天堂のゲームで使われる自画像的なキャラクターの「Mii」をそれぞれに作成して、原型案として示した。そこから大きく変わったキャラもいれば、目つきなどのニュアンスが残っているキャラもいるが、最初に方向性を見せたからこそその後の展開がある。ひとつのアプローチ方法として参考になるやり方だ。

 方向性が固まってからも、様々な表情や角度の顔、そして仕草が描かれ服装の設定も検討されていって、最終的な形になることもしっかりと分かる。実に膨大な作業の上に、視聴者が見ているアニメにたどり着いたと思うと、そのキャラを見る目も前とは変わってくるだろう。

 ほかにも撮影や美術、音楽などアニメ制作の各工程におけるそれぞれの作業について、『ONE PIECE FAN LETTER』を題材に語られてる。ストーリーの紹介とキャストへのインタビューで物語としての楽しみ方を知り、制作に関連した情報を読んでどうしてそのような見せ方やセリフになったのかを知ってからアニメを見返すと、それまでの何倍も楽しめるはずだ。

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