コピーライター・梅田悟司 × 歌人・岡本真帆が語り合う、“言葉”との向き合い方「違いを認めることが言語化の本質」

梅田悟司 × 岡本真帆、言葉をめぐる対談

無理に言語化しようとしなくてもいい

ーー言語化がいま、ブームといわれています。一方で映画を見たときなど、自分の中に生まれた感情を言葉にせず、まずネットで検索する若者が増えているという調査結果もあります(博報堂DYホールディングスによる調査)。この現状について、どうお考えですか?

岡本:検索してしまう気持ちはわかります。私自身は映画を見てもなにも検索せず、自分の言葉で感想を書きますけど、それは自分がふだんから気持ちを言葉にすることに慣れているからだと思います。ただ、それが正義とは少しも思っていませんし、検索することを非難するつもりもありません。感情をどう受け止めたらいいかわからなくて、とまどって調べてしまうというのは、そうさせてしまうなにかがあるんでしょう。

梅田:僕も感情を検索したくなる気持ちはすごくわかります。言語化ブームを含めて、自分の感情を言語化できないのはちょっと劣っている、恥ずかしいみたいな感じが少しあると思います。

 そもそも、その場で言語化できることって、本当に好きなものではないのかなとも思うんです。本当に好きなら、好きという言葉以外、なかなか言語化できるものではありません。言語化は、言い方を変えれば「客観視できている状態」なので、急いで言葉にしなくてもいいんじゃないかと思います。

 ひとりひとりの感情は似ているけれど、みんな非なるものです。映画のレビューを見て「そうそう、私もこう思ってた」と安心してしまいがちですが、実は若干、違うはずなんです。その違いをもっと説明しようとしたり、違いを認めることが言語化の本質だと思います。「言語化ブーム」が結果的に言語化を阻害してしまっているというのは、負の循環が生まれているのではないかという気がしています。

岡本:けっこう、この言語化ブームって危ないと思います。私の新刊は自分の好きについて書かせていただいたんですが、気持ちって言葉にすると固まっちゃうんです。こう思うって書いたら、その言葉が逆に心を乗っ取ってしまう、言葉のほうが強くなることが往々にしてあって、私は無理に言葉にする必要はないって思います。いろいろなコンテンツの消費スピードが速い中で、自分の心と向き合う暇がないのかもしれませんが、そこで安易に、無理に言語化しようとしなくてもいいんだよと言いたいです。それでモヤモヤしたまま抱えていて、3年後とか5年後に言葉にできたって体験もありますし、それが文学や創作になっていくと思うので。

ーー話がつきませんが、最後におふたりから読者に向けてメッセージをお願いします。

梅田:今は「言葉にならない気持ち」が先行する時代なんだと思います。世界のスピードが速すぎて、感情が追いつかない。そんな中で言語化をせかすのではなく、言葉にならない気持ちを拾い集めて提示することで「こんなことを思っているのは私だけじゃなかったんだ」と思っていただければうれしいです。言語化でいえば、追いつけないほうが普通ですよね。言語化できなくて「あー、わたしって残念」と考える必要はまったくありません。むしろ、この本を読みながら、自分の中の気持ちを少しでも解釈できるようになったら、とてもうれしいです。

岡本:今回の本をまとめるにあたって、あらためて好きって言葉は簡単なのに、すごく難しいものだなと感じました。アニメや映画、花を買うことなど、自分の好きをたくさん言葉にしたんですが、やっぱり自分の心は難しくて、謎に満ちている自分の好きっていう感情と誠実に向き合って、書かせていただきました。同じ好きでも私とあなたの好きはちょっとずつ違うと思うので、こういう好きもあるんだと思っていただけたらうれしいですし、これをきっかけに自分の好きと向き合うきっかけになってもらえたらと思います。

■書誌情報
『言葉にならない気持ち日記』
著者:梅田悟司
価格:1,650円
発売日:5月2日
出版社:サンクチュアリ出版

『落雷と祝福 「好き」に生かされる短歌とエッセイ』
著者:岡本真帆
価格:1,870円
発売日:4月7日
出版社:朝日新聞出版

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