島本和彦『ヴァンパイドル滾』と藤田和日郎『シルバーマウンテン』ーーレジェンド漫画家がW新連載に込めた「現代的」な挑戦

島本和彦と藤田和日郎 W新連載での挑戦

極めて「現代的」な2作

 さて、新連載の2作に話を戻すが、『ヴァンパイドル滾』は、「吸血鬼物」という一見クラシカルなテーマの作品に見えながら、実は極めて現代的なテーマを扱った作品である。具体的にいえば、SNSの功罪、2020年代のアイドルの形、ポスト・コロナ時代の生き方などが描かれているわけだが、ちょっと穿った見方をすれば、近年の大ヒット作、『【推しの子】』や『鬼滅の刃』を仮想敵と見なしているような部分も垣間見え、もしそうだとすれば、それは「33年ぶり」に「少年サンデー」に帰ってきた漫画家が、どれだけの高みを目指しているのかの表われでもあるだろう。

 『ヴァンパイドル滾』第1話のラストは、次のようなナレーションで締めくくられている。

 「この世界は光と闇の交差でつくられている…。光の側にいるつもりでも、いつ闇に落ちるかわからない。だが、逆に闇の中に落とされた方がむしろ輝くチャンスに近づく事もある…行く道は、常に自分自身がつかみ取って行くしかないのである」

 これは、少年漫画の「光」も「闇」も知っている、島本和彦という漫画家にしか書けない言葉だといっていいのではないだろうか。

 また、藤田の『シルバーマウンテン』も、『ヴァンパイドル滾』とは別の意味で、現代的な作品である。なぜなら今回、藤田が描こうとしているのは「異世界転生物」であり、それはあらためていうまでもなく、現在、エンターテインメントの世界で最も隆盛しているジャンルの1つだからだ。

 ただ、逆にいえば、「異世界転生物」は“すでに手垢にまみれたジャンル”でもあり、そんなジャンルにいまさら藤田が挑む理由は1つしかないだろう。つまり、藤田は、世に数多(あまた)いる「異世界転生物」の小説家や漫画家たちに、「俺ならこんな凄い物語が描けるぜ!」という挑戦状を叩きつけているわけであり、これはこれで、かなりの意気込みと自信がないとできることではないだろう。

60代の少年漫画家たちの底力

 いずれにせよ、個人的には、「少年漫画」とは、若い漫画家が子供たちに向けて描くものだと考えている。そういう意味では、現在の島本と藤田は、年齢的にもキャリア的にも、本来は大人向けの漫画誌で描くべきなのだが(実際、藤田が青年誌の「モーニング」で描いた『黒博物館』シリーズは大傑作だ)、今回の2作を読めば、そんな細かいことはどうでもよくなってくる。

 というか、たぶんふたりとも、60歳を越えてなお、魂のコアの部分は20代の頃のままなのだ。だから彼らはいまでも熱い少年漫画が描ける。島本和彦と藤田和日郎の“先”を、これからも見続けたいと思う。

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