「選書の楽しさを絶対に味わってほしい」チャプターズ書店・森本萌乃が養成講座をスタート

書店×マッチングのサブスクサービス「チャプターズ書店」が、3ヶ月で読書家・選書家になれる「選書マイスター養成講座」を開講する。本好きな人から新たに読書を始めたい人まで、楽しく読書を伴走する新しい学びの場になるという。
この講座ではオンライン動画で選書のノウハウを学ぶことができる。そしてオンライン・実技の試験を受けて、選書マイスターの資格を取得。そのスキルを生かして、自宅やカフェ、美容サロンなど、さまざまな業種で副業を始められるとのこと。なぜ、こんな斬新な選書講座をスタートしたのだろう? 代表・森本萌乃氏に話を聞いた。(篠原諄也)
ーーこの講座はどういうものですか?
森本:チャプターズ書店はこれまでに200冊以上の選書をしてきました。それを30冊に大厳選した上で、その作品について動画で解説しています。それを見ていくと、読書経験がゼロでも、選書家になることができるんです。
私たちのリアル店舗「チャイと選書 Chapters bookstore」(東京・市ヶ谷)では、お客さまに選書をするサービスを提供しています。そこで気づいたのが、選書というのは、する側もされる側もすごく楽しいということでした。選書をされる側は、自分では絶対に手に取らないような本に出会うことができる。選書をする側は、その人の人生をちょっとだけ変えたかもしれないと思う。
世の中にはたくさんの本がありますが、友達、家族、恋人など、好きな人に勧められた本が持つ影響力ってやっぱり最強だと思うんです。その楽しさは生きがいにもつながっていく。選書マイスターを取得する方には、そういう瞬間を絶対に味わってほしいですね。あとは、本が好きな方と話すと「読書は好きだけど、もっと上がいるし...」みたいな形で、自分を読書好きと名乗っていいのか逡巡している控えめな方がとても多いことも前々から気になっていました。本好きって誰かに認められるようなものではないけれど、だからこそ誰かからのお墨付きって嬉しいじゃないですか。みんなが胸を張って読書家を名乗れるようになって、人に本を勧められるようになったら、日本の読書カルチャーは変わると思っています。
ーーたしかに人から勧められて読む本は特別な感じがしますね。
森本:たとえその本が面白くなくても「この人の琴線には触れたんだな」「どこが面白いと思ったんだろう」と考えますよね。自分の気づかない価値観に気づけたりするんですよね。
チャプターズは恋する書店を謳っているので、恋愛をしたい方が多いんですが、本だけを楽しんでいる方も3、4割ほどいらっしゃるんですよ。あと「チャプターズに恋愛要素がなかったら使いたいのに」という声もいただくんです。当初は恋愛をしてほしいから作ったサービスでしたが、こんなに選書に対して信頼をいただけるとは思っていませんでした。その大切な副産物を使って、選書マイスターの養成講座を作ろうと思いました。
ーーオンライン動画はどんな内容ですか?
森本:私が先生になって、本をどのように人に勧めるといいかという観点から、あらすじや感想などの解説をしています。全て再読して、作品と向き合って、レビューを語るのが本当に大変で、オンライン動画の撮影は全部で半年くらいかかりました。オリジナルの教科書も作りました。例えば、初級ではそもそも選書とは何か、読みたい本はどのように見つけるか、どういう文学賞があるかなどを紹介しています。初級では皆さんの家に本があるという状況を作りたかったので、本を送るようにしていますね。

ーー初級・中級・上級で紹介する30冊はどのように選びましたか?
森本:チャプターズがずっとコンセプトにしてきたのが、普段本を読まない人にとって間違いのない一冊目の本でした。その選書リストにはもう命をかけてきたんです。会員の方に向けて毎月3冊を送ってきましたが、これまでの合計は200冊を超えました。
そのうち、私たちが特に好きだった70冊を市ヶ谷のお店の本棚に持ってきました。さらにお店の選書サービスで、数百人のお客さんの反応を見る中で、売れ行きがいい本、人に勧めやすい本が見えてきました。それで総合的にふるいにかけて厳選した30冊です。なぜ30冊かというと、1週間に1冊を読めば、半年間で取れますね。
本のジャンルは幅広く網羅しています。恋愛もあればミステリーもあって、短歌や海外文学もある。ライトなエンタメから、教養的なエッセイ、社会問題を扱った作品まで。賞で言えば、山本周五郎賞や本屋大賞が多いですね。
ーー選書をして人に勧めるときのコツを教えてください。
森本:大事なのは、具体的に自分の好きなシーンや引用について話すことです。全体のあらすじを大まかに把握している人よりも、強烈に好きだったシーン、登場人物、引用を言える人のほうが、絶対に面白く話せるんです。「⚪︎ページの、二人が出会ったときの絶妙な距離の縮まり方が感じられて思わずページに吸い込まれちゃう様な気持ちになるんだよ~」みたいな感じで。
だから無理にあらすじを把握しようとしなくてもいい。ミステリーも複雑な話であれば、全部を理解しなくてもいい。だけど、読んだときに気持ちがいい瞬間ってあるじゃないですか。その気持ちよかった場所や理由を鮮明に覚えておくんです。
あと、選書で大事にしているのは、年齢・仕事・家族構成などのステータスを聞かないことです。それを聞いてしまうと、つい固定観念で選んでしまうんですよね。例えば、銀行員の30代男性で家族がいるという方だったら、それだけで「頑張るお父さんなのかな」と思ってしまったり。でも本って、自分の中だけで続けられる現実のような側面もある。もしかしたら実は恋愛小説が好きかもしれないし、残酷なミステリーが好きなのかもしれないですよね。
ーー選書というカルチャーが広がっていきそうですね。
森本:私は本当に、誰もが軽い気持ちで選書家を名乗れるようにしたいんです。読者家というと重そうな印象があるので、軽やかな読書家を増やしていきたいです。今、パリに滞在しているんですが、YouTubeで「Books Are the New Luxury」という考え方に触れました。最近のラグジュアリブランドは、ブランド名を全面に出すよりも、あえて見せないようなクワイエット・ラグジュアリーがトレンドなんです。そんな中で、本を持って読書をしているということがファッションであり、今の情報社会に対するインテレクチュアルなレジスタンスだという考え方があって。海外のセレブリティは今こぞってブッククラブを開いているそうなんです。だから私はもうすぐ、本の時代が来るはずだと思っています。