映画大ヒット上映中の『ウィキッド』原作小説はもっとダーク? ファンタジーの中にある現代的テーマとは?

※本記事は映画・小説『ウィキッド』の内容に触れる部分があります。未読・未鑑賞の方はご注意ください。
先日から映画が公開された『ウィキッド』。その原作『ウィキッド――誰も知らない、もう一つのオズの物語』は、1900年にアメリカで初版が発売された『オズの魔法使い』の“前日譚”として描かれた作品だ。
本作の中心にあるのは、『オズの魔法使い』で「西の悪い魔女」として登場するエルファバと、「北の良い魔女」グリンダの友情の物語である。エルファバが“悪い魔女”と呼ばれるようになるまでの数奇な運命をたどることで、本当の「悪」とは何かという根源的な問いに踏み込んでゆく。
この物語の大きな魅力の一つは、魔法の国オズというファンタジーの舞台を借りながらも、現実世界の問題を鋭く描き出している点にある。戦争、宗教、差別、階級社会といったテーマが織り込まれており、表面的にはおとぎ話でありながら、その裏側には現代にも通じるリアルな社会の構造が垣間見える。小説が発売されたのは1995年のアメリカ。その時代背景は本作にも色濃く反映されており、作中で迫害される〈動物〉たちは、現実社会の特定の人種を風刺した存在として描かれている。
ブロードウェイ・ミュージカルとして人気を博し、ついには映画化までされた本作が語るのは、お伽話で悲惨な運命を迎える「悪」を生み出してしまった歪んだ社会の姿である。『ウィキッド』は、ファンタジーの形をとりながらも、時代や場所を超えて問いを投げかけてくる、鋭い社会風刺の物語だ。
『オズの魔法使い』では描かれなかった魔女たちの絆
物語の舞台となるオズの世界では、中央のエメラルド・シティを囲むように、東西南北それぞれに特色ある国々が広がっている。ドロシーが竜巻に巻き込まれ、カンザスからマンチキンの国へと運ばれる10年前――。その地で、後に「西の悪い魔女」として知られるエルファバ、そして「南の良い魔女」グリンダ、さらに「東の魔女」となるネッサローズ(エルファバの妹)の3人は、同じシズ大学に通っていた。
大学では少し目立った存在であったものの、緑色の肌を持つエルファバと、車椅子での生活を余儀なくされる妹ネッサローズの間には、時に衝突もしながらも深い家族愛が存在していた。障害や容姿という「違い」があっても、多くの家族と同じような家族愛がある暖かな関係であった。
エルファバの大学のルームメイトとなるのが、のちに「南の魔女」となるグリンダだ。裕福な家庭で育ち、華やかで社交的な彼女と、地味で実直なエルファバは性格も価値観もまるで正反対。それでも、寮生活をともにするなかで、お互いを理解し、助け合い、かけがえのない親友となっていく。その過程には、日常の中で育まれる信頼や、違いを乗り越えて心を通わせていく誠実さが描かれている。
上、下巻に分かれた本作。上巻では、彼女たちの学園生活が主に描かれる。理不尽な校則に反発したり、魔法の授業で張り合ったり、誰かに恋をしたり。微笑ましく、切なく、そしてどこか懐かしさを覚えるような青春群像がそこにはある。エルファバとグリンダが互いの存在を通して変化し成長していく姿は、魔女である以前にひとりの若者としてのリアリティを強く印象づける。
だが、物語が下巻に入ると、その空気は一変する。エルファバは社会に潜む不正と直面し、信念を貫く人生を選び取っていく。そしてそこに突如現れるのが、あの「ドロシー」である。無垢な少女の存在が、皮肉にも魔女たちの運命を大きく狂わせていく。
『オズの魔法使い』では単に「悪い魔女」とされていた存在に対して、この物語はその過去と内面を丁寧に掘り下げ、複数の魔女たちが築いた関係性やその断絶、そして喪失までもを描いている。





















