大友克洋 初めて漫画に持ち込んだ要素とは 『童夢』単行本版と全集版を比較して見えた“先鋭的”表現

『童夢』全集版を単行本版と比較
この『童夢』の全集版は、単行本版と比較するとさまざまな点が異なる。まず地味に大きいのが、判型が大きくなった点。さらに印刷も高精度なので、細かいペンのタッチの硬軟や、精密に描き込まれた団地のディテールなど、原稿の細部までよく見える。

さらにもうひとつ、雑誌掲載時の表紙イラストが収録されている点も興味深い。連載では全4話と話数の少ない『童夢』だが、その話数の少なさもあってか密度の濃いイラストが表紙に使われている。特に2話の表紙はアナモルフォーシスを使ったものになっており、このイラストは巻末の大友による解説で「この作品でやってみたかったこと」と語られている。そこまで重要なイラストながら、旧版の単行本しか持っていなかった自分はいままで見ることができなかった。
雑誌掲載時のカラー原稿が再現されている点も興味深い。2話冒頭の二色刷のページでは死んだ山川部長のみ色がのっていなかったり、3話冒頭の血まみれになった団地の廊下の表現の様子がわかったりと、この全集版で初めて理解できたことは多い。この3話の冒頭に関して言えば、全集版90ページの吉川の顔にも色がつけられておらず、この彩色の有無とその意図については色々と想像も膨らむ。
全集版の末尾には、前述のように大友本人による自作解説が掲載されている。この解説によって、作品内の各要素のイメージソースや製作のキーになったポイントなどが明らかになっているのも興味深い。まず「団地」ありきのホラーだった点や、描くにあたってどこに凝ったか、ストーリーのヒントになったとある小説についてなど、長い文章ではないものの「そうだったのか!」となるエピソードが綴られている。この解説の存在も、全集版の大きなバリューだろう。
なにより、長らく絶版になっていたこの作品を、高精度の印刷でもう一度読むことができるということ自体に大きな価値がある。散りばめられた表現の数々は拡散し擦られ倒して、『童夢』を初めて読む若い読者にとっては、もはやフレッシュなものではなくなっているかもしれない。しかし、大友克洋の圧倒的画力と「これを最初に生み出した」という実績は、何度本作を読み返しても目減りしない。その実績を知るだけでも、この歴史的名作に改めて触れることの意義になるはずだ。
























