氷河期世代の自尊と自虐に身悶えしたくなる “ひきこもり世代のトップランナー”滝本竜彦の現在地
就職氷河期世代が抱える自尊と自虐
22年前の『超人計画』の頃とそれほど変わってない姿に、その間いったい何をしていたのだろうといった思いも浮かんでくる。『超人計画』の頃はまだ、ひきこもり世代のトップランナーとして、迷える同世代の声を代弁し態度を肯定し、自虐しながらも自尊を忘れずに生きていけば良いのだと諭してくれていると感じられた。22年が経って、『超人計画インフィニティ』の時代に“転生”した滝本竜彦は、その自尊が同じ世代、同じ境遇にあるアラフォーやアラフィフの氷河期世代に痛みを覚えさせかねない存在となっている。
そこで滝本竜彦は、派遣先の面接を受けて臆しながら小説家だったことを話し、『ネガティブハッピー・チェーンソーエッヂ』『NHKにようこそ!』『超人計画』といった著作を挙げ、超人になる意義をひとしきり語った後で「今、惨めな感じです」と言ってしまう。『超人計画』の時と同じように、脳内彼女のレイちゃんを創造してダメな自分を鼓舞するような存在として起きつつ、それでもダメな暮らしを続けてしまう。
そうした日々の中で思い出すのは、角川学園小説大賞の授賞式で、富野由悠季監督から「今は若いけどすぐに歳をとるからね。油断してたらダメだよ」と言われたこと。その時は、「何言ってんだこの人」と思ったが、実際に時は流れ、家庭も家も車も手に入れていない自分に気付く。
だったら気を取り直してまっとうに生きる道を選ぶのかというと、富野監督は「刻の海を超えて、光に任せて飛んでみろということを伝えたかったのではないか?」と受け止め、「我々クリエイターは、ぼんやりと生きることなく、一生懸命に働きながら、心の光を世界の人に見せなければならないのだ」とクリエイターであり続けようとする。それを、『超人計画インフィニティ』というこちらはエッセイ風小説を書いてしまっている。
これを、絶対に曲げられない作家としての信念と取るべきか、捨てられない未練と取るべきかが読み手も迷うところだろう。氷河期世代として就職に苦労し、派遣やアルバイトを続けながら気がつくとアラフォー、アラフィフまで来てしまった滝本竜彦の読者にとって、夢の中でもがきつづける自分を見ているような気がして、共感性羞恥に身悶えしたくなるところがあるからだ。
その一方で、どれだけ地に堕ちようとも生き方を変えない姿に、これこそが自分たちの生き方だと勇気づけられる人もいるかもしれない。授賞式に着ていった一張羅のスーツを引っ張り出して、派遣先で知り合った青山という名の女子とデートしようと画策し、ネットで募金を呼びかけ、それを元手にブルーノートへと行ってさらに青山の部屋にまで上がり込むことに成功した滝本竜彦に、自分をなぞらえたくなる。その後に何が起こったかも含めて、自分はどの道を選ぶかを考えてみるきっかけをくれる作品だ。
いずれにしても滝本竜彦は、小説を書くのを止めずに今も東京にいて、三島由紀夫賞作家の佐藤友哉や野間文芸新人賞候補作家の海猫沢めろんらをバンドを組んでライブを行い、同人誌を作って文学フリマのブースに立ち続けている。苦しくも楽しく、厳しくも気楽な人生を送りたい人には読んできっと何かを得られるだろう。
























