第70回小学館漫画賞贈呈式レポ『これ描いて死ね』作者は松本大洋の賛辞に感動 各作品への講評と受賞者の声

授賞式会場の様子

 まえだくん『ぷにるはかわいいスライム』についてはブルボン小林が講評した。芥川賞作家の長嶋有が漫画やゲームなどの評論を行う際に使っている名前で、受賞作については「1巻の表紙を見てお兄さん向けの萌え漫画じゃないかと思ったら、萌え漫画のようでもあるが、純粋に正しく子供向けに徹していた」と話して、「コロコロコミック」のテイストに合った作品であることを指摘した。

 作中に登場するぷにるの下品になりきらないクールさは、藤子不二雄の『オバケのQ太郎』に登場するQ太郎や高橋留美子『うる星やつら』のラムちゃんに通底するところがあるとも指摘し、そうしたキャラクターに並ぶ主人公の風格を感じていることを話した。

 作者のまえだくんは、受賞に感謝する言葉を述べた後、「週刊コロコロコミック」というWeb媒体での連載が意味する作品の立ち位置について話した。「月刊コロコロコミック」が好きでずっと描いてきたものの、「今の子供たちが好きなものを描かなくてはならない」という状況に対応する難しさを感じていたところ、「週刊コロコロコミック」が立ち上がり、「かつてのコロコロが好きだった人たちの目に止まる場所で、大人になっても子供向けしか好きではない異端の人に向けた場所」と感じて執筆を希望し、連載を始めたことを打ち明けた。

 立ち上がったばかりの媒体ということで、「何も土壌がない場所に自分が描きたいものを描いたら、前例がないのでスタンダードになってしまった」とも。対象読者がきっちりと分かれることが多い紙の媒体とは違い、広い層が読もうと思えば読めるWebでの連載だったことが、ピタリとハマるファン層に届く結果を呼んで、そこから大きく広がっていったと言えそうだ。

 日本の漫画の歴史を飾る作品が受賞してきた小学館漫画賞。前回から部門が廃止されたこともあって、ノミネートされた12作品から審査委員が受賞作を選ぶ方式となった。結果は、少年漫画誌の「ゲッサン」に連載の『これ描いて死ね』、漫画アプリの「マンガワン」に連載の『灼熱カバディ』、青年誌の「ビッグコミックスペリオール」に連載の『夏目アラタの結婚』、漫画サイトの「週刊コロコロコミック」連載の『ぷにるはかわいいスライム』といった、異なる媒体から受賞作が出る形となった。松本大洋、高瀬志帆、島本和彦、ブルボン小林以外の審査委員は川村元気、曽山一寿、竜山さゆりが務めた。

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