第70回小学館漫画賞贈呈式レポ『これ描いて死ね』作者は松本大洋の賛辞に感動 各作品への講評と受賞者の声
第70回小学館漫画賞の贈呈式が3月3日に開催され、『これ描いて死ね』(とよ田みのる)、『灼熱カバディ』(武蔵野創)、『夏目アラタの結婚』(乃木坂太郎)、『ぷにるはかわいいスライム』(まえだくん)の4作品に贈られた。贈呈式では受賞作の作者が登壇して小学館の相賀信宏社長から正賞のブロンズ像と副賞の100万円を受け取った。

贈呈式では審査委員から受賞作への講評が披露され、その後に受賞者が登壇し喜びを語った。最初に講評に立ったのは『ピンポン』などの作品を持つ松本大洋。とよ田みのるの『これ描いて死ね』について、「好きな作家さんが師匠でも野卑なことを言う男子生徒も出てこない、美しい島のおとぎ話であると同時に、漫画の制作を仕事にする、時に苦痛を伴い、助けてくれていた漫画が自分を苦しめる状態に陥るということをきちんと描いていて、漫画家や編集者に突き刺さる」と賛辞を贈った。
これを受けてとよ田は、「初めて描いた漫画が少年サンデーに載った時、編集さんから松本大洋好き? と言われたくらい影響を受けていた。光栄に胸が詰まった」と憧れの漫画家からの言葉を喜んだ。CLAMPや皆川亮二といった先輩漫画家がヒット作を飛ばしメディア化も続いたことを「たまたまだ、運だと言っていたがそんな訳がない。慢心しないための諫めのために言っているところがあると思うので、自分もたまたまだと思うことにする」と話して、これからも気を引き締めて創作に取り組む意欲を見せていた。
この後、漫画を描く女子高生たちが主人公の作品で受賞したこともあり、作品に使いたいからといって壇上から会場の風景を撮影したとよ田。いつか作品の中の誰かが大きな賞を受賞する展開と共に、贈呈式の光景が描かれることになりそうだ。
続いて、武蔵野創の『灼熱カバディ』について、審査委員の中から『二月の勝者-絶対合格の教室-』の高瀬志帆が壇上に立って講評を行った。「とにかく面白い。面白くてびっくりした。ただのファンみたいになった。めちゃくちゃ熱い。とにかく熱い。アクスタ欲しい」と、本心から湧き出るような好意を作品に向けた。「すべての頑張っていた人と頑張れなかった人たちが倒れた時にどうやって立ち上がるかが熱く描かれている」と賞賛して、人生をどう生きるか考えるきっかけになる作品であることを訴えた。
作者の武蔵野は、最初は不思議なスポーツということでカバディを題材に取り上げようとしたが、「調べていくうちに、決してネタスポーツではない、ふざけているわけでもなく真剣に取り組んでいる」ということが分かり、漫画を描く上で「真剣に取り組んだ」ことを明かした。『灼熱カバディ』は第66回小学館漫画賞にノミネートされたことがあって、「自身を持って獲りますと言ったが獲れなかった。今、やっとチャンスがまわってきて絶対に獲りますと言った。嘘ではなかった」と、作品に対する強い自信が結果に繋がったことを喜んでいた。
乃木坂太郎『夏目アラタの結婚』については、『炎の転校生』『アオイホノオ』などで知られる島本和彦が審査委員として講評に立った。『灼熱カバディ』にも少し触れ、「熱さを維持するのがどれだけ大変かは、熱い漫画を描いている者同士だから分かる」と、前回の落選から後も情熱を絶やさず描き続けた武蔵野を讃えた。その後、『夏目アラタの結婚』について、漫画でミステリーを描く難しさを語った後、「難易度が高いことを見事に着地させて感動に結びつけた。何回読んでも面白い」と褒め称えた。
話しているうちに熱くなり、身振り手振りも交えて講評を語るようになっていった島本。「読み直した時に、第3巻であのラストに持っていくのは自分だったら無理と思う」といった構成上の工夫を挙げ、作品に登場するあるキャラについて「こんなに美しいキャラを美しく思えなくなる体験をさせてくれる」とどんでん返しを予感させることも言って、作品への興味を誘った。熱い島本を熱くさせる作品だったと言えそうだ。
講評を聞いて乃木坂は、「細くて高い鉄塔から手を滑らせたら落ちてしまうプレッシャーの中で描いていた」ことを打ち明け、「受賞に至って塔のてっぺんにタッチして戻ってこられた」と安堵した。この後、スタッフや家族や編集への感謝を述べ、最後に「連載が終わる少し前に能登で大きな地震があった。ふるさとでもあり『夏目アラタ』の舞台にもなっている。復興が進んでいないという話を聞いており、今回の賞金を義援金として寄付させて頂く」と言って会場の拍手を受けていた。





















