CIA、MI6、KGB……フィクションに登場するスパイ組織 リアルとはどう違う?

フィクションのスパイ組織リアルとの違い

■KGB(ソヴィエト連邦国家保安委員会)

 今は無きソヴィエト連邦に存在した諜報機関。かつてウラジーミル・プーチンがKGBの諜報員だったのは有名な話だろう。

 旧東側諸国におけるラスボスのような存在であり、欧米先進諸国で製作されたフィクション作品では悪役として登場しがちである。組織の起源はロシア革命直後に発足した「チェーカー」で、改組を経て、1954年にKGBになった。西側と東側では政治体制が全く異なるため、諜報機関の在り方も違う。アメリカでは国外での諜報と国内での防諜と国境警備と要人警護はそれぞれ違う組織の管轄だが、KGBはそれらの任務と権限を一手に握っていた。中央集権的、独裁的なソヴィエト連邦の政治体制を思わせる組織である。

 秘密警察として反体制的な思想の取り締まりも行っていた。太平洋戦争終結まで日本に存在した特別高等警察(特高警察)や、東ドイツに存在したシュタージ(国家保安省)も同様の任務を担っていた。フィクション作品では『善き人のためのソナタ』はダイレクトにシュタージを扱っている。同作の主人公はシュタージのベテラン尋問官である。特別高等警察はあまり見たことが無いが、『硫黄島からの手紙』で加瀬亮演じる清水の回想の場面にそれらしい描写があった。清水は憲兵という設定だったが、あの職務内容は特別高等警察のものである。制作側が憲兵と特別高等警察を混同してしまったのだろう。

 フィクション作品では悪の親玉のような存在として登場しがちなKGBだが、ソヴィエト連邦崩壊後は複数の組織に分割された。現在のロシアではFSB(連邦保安庁)とSVR(対外情報庁)が諜報活動を担っている。『THE NEXT GENERATION パトレイバー 』に登場したカーシャ(太田莉菜)はFSBから派遣されたとの設定だった。

■モサド(イスラエル諜報特務庁)

 イスラエル首相府直属の諜報機関で、1949年に設立された。

 驚きなのだが、イスラエルにはモサドの活動を制限する法律が存在せず、非合法な活動も許容されると解釈されている。イスラエルにはモサド以外にも諜報機関が存在し、シャバクとアマンはそれぞれ国内の防諜、軍事情報の収集を担当する。モサドとシャバクの関係はCIAとFBI、あるいはMI6とMI5のような位置づけになっている。

 モサドが有名なのは諜報活動よりも、秘密工作だろう。1972年のミュンヘンオリンピックでイスラエルの選手・コーチ11名をパレスチナの武装組織「黒い九月」が殺害するテロ事件が起きたが、イスラエルがその時に選択したのは直接的な報復だった。モサドの実行部隊「キドン」(ヘブライ語で「槍」を意味する)は、黒い九月のメンバーを見つけ出し暗殺を実行した。ただし、人違いによる殺人をするミスを犯してしまったため、作戦の全貌が明るみに出ることとなった。この事件は映画『ミュンヘン』の題材になっている。

 モサドは他にもイランの核物理学者の連続変死事件、パレスチナの過激派組織「ハマス」幹部の変死にも関与(暗殺)したと目されている。どちらも高度な情報収集能力がなければ実行不可能な作戦である。スパイおたくの池上彰氏によると、現代最強の諜報機関はモサドだとのことだ。

※本稿執筆にあたり主に下記書籍を参考としていることをお断りしておく。
加賀山卓朗(著)、♪akira(著)、松島由林(イラスト)『警察・スパイ組織 解剖図鑑』(エクスナレッジ)
ロバート・ベア (著)、佐々田 雅子 (翻訳)『CIAは何をしていた?』(新潮社)
池上彰 (著)『世界史を変えたスパイたち』(日経BP)
落合浩太郎 (監修)『近現代 スパイの作法』(ジー・ビー)

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