野球漫画「主人公だけ」で仮想日本代表チームを組んでみた「ユーティリティープレーヤー編」

野球漫画日本代表ユーティリティー編

  日本シリーズが終わったと思いきや、今年は第3回WBSCプレミア12が開催中。11月13日から始まる日本はグループBの中でどのような戦いを見せてくれるのか。目が離せそうもない。

 そんな野球熱がまだまだ続く中、漫画の主人公だけで野球チームを組むことは可能なのだろうか検証をしてみたい。  今回は「投手」「救援投手」「野手」に続き最終回として「ユーティリティープレーヤー」だけで仮想日本代表を組んでみる。

■漫画の主人公だけで野球チームを組んでみた「ユーティリティー編」

 ユーティリティー(役に立つ、万能)プレーヤーとはチームスポーツにおいて複数のポジションをこなす選手を指す言葉である。MLBでは各ポジションごとにもっとも打撃に優れた選手を選出するシルバースラッガー賞と、もっとも守備に優れた選手を選出するゴールドグラブ賞があるが、2022年よりユーティリティーがポジションとして新設された。

  タンパベイ・レイズ、シカゴ・カブスなど4球団でプレーしたベン・ゾブリスト氏は優れたユーティリティープレーヤーの代表的存在で、2009年にはバッテリー(投手・捕手)以外の全ポジションで出場している。現代のデータ分析は守備能力の数値化にも及んでいるが、UZR、DRSなど主要な守備の指標を見ると、ゾブリスト氏の守備はどのポジションでも平均程度か平均以上だったことを示している。恐るべき起用さである。

  打撃でも27本塁打91打点17盗塁OPS.948を記録し、MVP投票では8位に終わったが選手の総合力を評価するWARはリーグ1位だった。当時は今ほどMVP投票でWARが重視されていなかったが、現在の基準ならMVPになっていたかもしれない。現役選手だと、キケ・ヘルナンデスが内外野全ポジションを守れるユーティリティープレーヤーだが、ゾブリスト氏に比べると走塁と打撃はだいぶ格落ちする。ユーティリティープレーヤーでありながら中軸を打っていたゾブリスト氏は異能と言っていいだろう。

  ユーティリティーは最近になって使われるようになった言葉だが、漫画の世界にもユーティリティープレーヤーはいる。彼らは選手起用に柔軟性をもたせてくれる、重要な存在である。しつこいようだが繰り返すが選考対象は全員、野球漫画の「主人公」である。

・谷口タカオ『キャプテン』、『プレイボール』

  メインは三塁手だが、投手も兼任でき、右翼手もできるユーティリティープレーヤー。プレーは高校レベルだが、泥臭いプレーが身上の熱血なムードメーカータイプで ベンチにいると好影響がありそうである。このチームは野手がやや手薄なため、ユーティリティーであるタカオはベンチ要因としてはかなり有用だろう。『プレイボール』は作者のちばあきお氏が41歳の若さで亡くなってしまったが、コージィ城倉氏の手により続編の『キャプテン2』が現在連載中である。

・景浦安武『あぶさん』

水島新司『あぶさん 球けがれなく道けわし』(小学館)

 「あぶさん」こと景浦安武は1973年から2014年まで連載された歴史的長寿漫画の主人公。26歳でプロ入りし、渋い代打の切り札として活躍した後、40代でレギュラーに定着。3年連続の三冠王を初めとする数々の偉大な打撃記録をつくり、60過ぎまで現役で活躍してプロ野球史上初の打率4割を記録して引退したレジェンドプレーヤーだ。フィクションのキャラクターながらあまりにも長期間活躍したため、ソフトバンク・ホークスは『あぶさん』連載終了からしばらく90番が準永久欠番扱いだった(2021年以降は小久保裕紀監督がつけている)

  桁違いの強肩の持ち主で、レフトゴロを記録したこともある。出場は主にレフトかサードだったが、筆者の確認した限りライト、ファーストも守っていた。スラッガーでありながら実はユーティリティープレーヤーでもある。

・岡本慶司郎『おはようKジロー』

水島新司『おはようKジロー 4 』(秋田書店)

  慶司郎はアスリート能力が高く、走攻守に優れたオールラウンドプレーヤー。『ドカベン ドリームトーナメント編』再登場時は中軸を打ちながら、捕手で先発出場してクローザーとして終盤に登板し、最速158km/hを記録している。人材が手薄なため、高校時代に多く守っていたセカンドでの起用がメインとなりそうだが、セカンドには四方がいるのでコンディションを見つつ四方とのツープラトン起用か、ブルペンでリリーバーとして待機しつつ、怪我などの緊急時に空いたポジションを任せる形になるだろう。

・真田一球『一球さん』

水島新司『一球さん (7)』(小学館)

 忍者の末裔で、トップクラスの強肩、俊足の持ち主。バッティングセンスにも優れ、ツボに入ればスタンドまで飛ばす長打力もある。劇中では投手が一応はメインのような扱いだったが、明確な固定ポジションが無いと言ってもいいほどのユーティリティーぶりを見せていた。このチームは投手にタレントが偏っているため、慶司郎と一球さんは野手での出場を優先した方がいいだろう。この二人は捕手もできるのが大きい。捕手は山田とそれ以外の能力差が激しいため、山田が捕手として出場できない緊急時は控え捕手たちよりも、万能プレーヤーで打撃能力も高い慶司郎か一球さんに任せた方がいいだろう。

・星飛雄馬『巨人の星』『新・巨人の星』

梶原 一騎、川崎 のぼる『巨人の星(1)』(講談社)

 言わずと知れた野球漫画の古典の主人公。『巨人の星』では打ち気の無い打者のバットに狙って当てて凡打を量産する「大リーグボール一号」、ボールが消える「大リーグボール2号」、ボールがバットを避けて通る「大リーグボール3号」。続編の『新巨人の星』ではボールが三つに見える「蜃気楼の魔球」を操る。初見の打者はパニックになるだろう。分業制が確立される以前の選手のため、先発とリリーフの両方で経験があるのも大きい。

 『新巨人の星』では、代打・代走要員としても活躍しており、オールスターゲームで一度だけライトを守っているので野手としても出場可能だ。(ただし、実際の試合でスクリュースピンスライディングをやったら、守備妨害を取られてアウトだろう。それだけでなく、悪質な危険行為として退場になるかもしれない)

・茂野吾郎『MAJOR』

清田拓也『MAJOR』(小学館)

  現在は続編が連載中の、ご存じ人気長寿作品『MAJOR』第一部の主人公。当初は先発投手としてメジャーリーグで活躍するが、血行障害をきっかけにクローザーに転向し、先発投手として最多勝二回、最優秀防御率三回、クローザーとして最多セーブを二度獲得している。先発投手の主人公は数が多いので、このチームだと吾郎のメインの職場はブルペンになるだろう。最速160km/hを超えるフォーシームと鋭く落ちるフォークボールが武器で、コントロールも一級品。肩の故障で一度引退した後、打者として日本で現役復帰しており、外野手(レフト)として活躍しているので、打撃を期待してレフトで起用する選択肢もある。高校時代にはライト、ファーストも守っていた。ちなみに、のちに作者の満田拓也氏が誤りを認めているが、本作のジャイロボールの描写は完全に間違っている。作中でジャイロボールのことを威力のある速球と描写しているが、実際のジャイロ回転のボールはマグヌス効果が発生せず、フォークボールや縦のスライダーのような軌道になる。

 ところで、吾郎は極めて珍しい、左投げ右打ちである。日本で左投げ右打ちの投手は見たことが無いが、(吾郎の場合は、もともと右投げだったのが右肩の致命的な故障で左投に転向した経緯がある)。アメリカでは、時折見かける。

  マディソン・バムガーナー氏は通算134勝をあげ、サンフランシスコ・ジャイアンツのワールドシリーズ制覇にも貢献した名選手だが、投手でありながら打撃能力が高く、シルバースラッガー賞を2度受賞している。2016年には、DH制のあるアメリカン・リーグのオークランド・スレチックスとのインターリーグで、わざわざDH制を放棄しバムガーナー氏を打席に立たせる作戦が取られたことがある。その試合では4打数1安打で、二塁打を一本打っている。

  通算148勝のマイク・ハンプトン氏も打撃に定評のあった選手だ。ハンプトン氏は投手としても最多勝を1度受賞しているが、シルバースラッガー賞は5度も獲得している。投手としては度を越えて打撃が優れていたため、たびたび代打として起用されることもあった。特に2001年には、打席に立つ機会が限られる投手でありながら、1シーズン7本塁打をマークしている。ナショナルリーグにおける投手のシーズン最多タイ記録である。

  今のMLBは両リーグともにDH制になってしまったので、大谷翔平のような特殊な例以外は打席に立たなくなってしまったが、この二人は二人とも左投げ右打ちである、他、打撃に特に定評があったわけではないが、通算303勝、歴代2位の4875奪三振を記録して有資格初年度に一発殿堂入りしたランディ・ジョンソン氏も左投げ右打ちである。また、殿堂入りしした野手で唯一の例として、通算盗塁記録の歴代記録保持者リッキー・ヘンダーソン氏も左投げ右打ちである。

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