【漫画】地味な女子高生の漫画を描く姿に魅了され……女性同士の熱い絆を描く『月の光を背に』が尊い

女性同士の友情を描きたかった
――『月の光を背に』を描こうと思ったキッカケは?
さいとう:同世代の漫画家さんが道半ばで筆を折る姿を何度も見てきたからです。世の中の漫画家が主人公の作品は、たいてい最後は成功して終わりますが、実際は挫折して違う道を行く人が大多数だと思います。「そういった実態をエンタメとして落とし込みたい」と思いました。
――挫折よりは成功のほうが描かれやすいですからね。
さいとう:はい。あと「創作しない人たちにもフォーカスを当てたい」と考えました。「自分は何も夢が無い」「目標が無い」「趣味が無い」「つまらない人生である」と悩んでいる人をよく見かけます。ですが、そんな悲観的になる必要はありません。周りの人とコミュニケーションを取って生きているだけで十分価値があると思います。“創作物が評価されない人”も“創作しない人”も等しく豊かで尊いことを自分なりに表現したかったことが経緯にあります。
――本作は自身初の創作の百合作品とのことですが、なぜ創作の百合作品を制作しようと?
さいとう:男性同士の親密なつながりを指す“ブロマンス”という言葉が使われる以前から、少年誌や青年誌はもちろん、映画、ドラマ、演劇、ひいては叙事詩や神話まで、プラトニックな男性同士の熱い友情、信頼関係、絆の物語は幾度となく描かれています。翻って女性同士の熱い絆の物語はあまり見ないように思います。
――確かに“女の友情”よりは“男の友情”という言葉を聞く機会のほうが多いような…。
さいとう:私は性自認が女性で、同性の友人たちに対して深い愛情を抱いているので、「少しでも女性同士の物語を増やして、共感や認知をしてもらえたらいいな」と思って制作しました。ただ、私は友愛と恋愛の違いがあまりわからないタイプなので、自分の中では百合として描いていますが、人によっては百合ではないのかもしれません。
――ちなみに舞台を高校にした理由も教えてください。
さいとう:自分の進路を真剣に考える一番最初のターニングポイントだからです。中学生までは漠然と進学する人が多いと思いますが、高校生になると具体的な進路を考える機会が増えます。この作品のテーマは“変化”ですので、一番妥当な舞台が高校かなと。
魅せたいシーンの前後は音楽のサビの前のAメロBメロを作る感覚
――ユキとヒカルはどのようにして作り上げられましたか?
さいとう:現在30代の人の高校生時代の話という設定ですので 、ユキはAKB48全盛期のビジュアルを意識しています。また、クラスに1人はいる“ギャルっぽいけど優秀で気遣い上手な子”というイメージです。一方、ヒカルは美術部の中でも馴染めず孤立してるような女の子のイメージです。重めの吃音持ちのため話すことに苦手意識があり、空想の世界で一人閉じこもるようになりました。
——ヒカルが熱中して漫画を描いているシーンや、ヒカルの眩しさに心打たれてユキが空虚感を覚えるシーンなど、登場人物の感情が見え隠れするシーンを描くうえで意識していたことは?
さいとう:そういった魅せたいシーンの前後のテンポやセリフ回しは気を遣っています。音楽のサビの前のAメロBメロを作る感覚でしょうか。また、似たような行動やセリフを何度か入れるようにしています。「そうすることで天丼のような効果があるかな」と思います。
——中でもさいとうさんが気合を入れて描いたシーンはどこですか?
さいとう:ヒカルが一生懸命漫画を描いてる大ゴマページは、一生懸命さが伝わるように何度も描き直しました。また、その後ヒカルとユキが目が合うカットも気に入っています。カフェのトイレで二人がぎゅっと手を握るシーンも熱が伝わるように描きました。
——作画だけではなく、『それ』を持っていないことに虚しさを抱えたりなど、ユキの感情の描かれ方も魅力的でした。ユキの感情はどのようにして描きましたか?
さいとう:優しくてよく気の付く大好きな友人がいるのですが、その子はいつも自信が無さそうに見えるので、「どうして自信が持てないんだろう?」といろいろ想像しながらユキの感情を描いていきました。全て私の想像なので見当違いな想像かもしれません。ただ、「私から見たらあなたは十分素敵な人間だよ」と伝えたい思いからユキを創りました。
――そういう思いを感情を考えていったと。
さいとう:また、ユキの主観的な自身への評価と、周囲から見たユキの評価の食い違いに注意ながら作画しました。ユキは自分の価値に思い悩んでいて「変わりたい」と切望している。ただ、周りの人はユキの優しさ、心の暖かさに気が付いていて、「変わってほしい」とは思っていない。これがずっと平行線のままなのか、「それとも…」というところは気を付けて描きました。
――最後に今後の活動予定など教えてください。
さいとう:2月16日の「コミティア」に参加しますので、ぜひお立ち寄りいただけると嬉しいです。新刊として『月の光を背に』を頒布する予定です。スペースは東2のL39aです。また、電子書籍も販売中です。内容が気になった人はぜひお手に取ってみてください。
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