“超リアル”で話題のディズニー映画『ライオン・キング:ムファサ』動物行動学者はどう評価?

『ライオン・キング:ムファサ』が、2024年に国内で公開された洋画実写作品の興収No.1を記録し、話題を呼んでいる。本作は、2019年に公開された『ライオン・キング』の前日譚であり、野生の王国・プライドランドの王ムファサの生い立ちを描く物語だ。
“超実写版”と銘打たれた本作は、まるで本物のサバンナの映像と錯覚してしまうほど動物たちの姿がリアルに描き出されているが、実際と照らし合わせるとどのように見えるのだろうか。
動物に関する数多くの著作があり、国内外のネイチャー・ドキュメンタリー映画や科学番組の監修を務める動物行動学者の新宅広二氏に、リアルなライオンの生態と映画の表現について話を聞いた。
ライオンは群れを作るネコ科唯一の動物
『ライオン・キング』シリーズでは、王座をめぐって熾烈な争いが繰り広げられるが、これは何もフィクションの中だけの話ではないようだ。新宅氏は、ライオンの特徴的な生態を以下のように語る。
「ライオンはネコ科の中で唯一、群れを作る動物です。ネコ科の動物は基本的に単独で生活するのですが、ライオンは体が大きいため見つかりやすく、1匹では狩りができません。組織的に協力することで、大型の獲物を仕留めることができるのです。そのため、群れのリーダーとなる個体の役割が重要になり、王としての素養が問われます。群れの強さは、リーダーの資質によって大きく左右されるのです」
映画では、両親と生き別れたムファサがよその群れに迎え入れられ、年の近い子ライオンのタカとともに兄弟として育つという展開が描かれるが、現実のライオン社会ではどうなのか。
「基本的にライオンのオスは、群れを乗っ取る際に前のリーダーの子どもを皆殺しにすることがほとんどです。自分の遺伝子を残すために、過去のリーダーの血を引く個体は排除されてしまいます。ただし、孤児となった個体が群れに加わるケースは、極稀ではありますが、ないとは言い切れません。これは哺乳類の面白い点で、人間のように“魔が差す”ということがあり得るのです。ライオンも複雑な感情を持ちうるため、何らかの理由で殺せなくなったり、仲間に入れてしまったりすることはあるかもしれません」
ライオンは、発達した社会性を持つ動物であり、その行動が時としてドラマを生むこともあるという。映画が描いたムファサのストーリーも、まったくの空想ではないのだ。
オスとメスの役割分担の誤解
『ライオン・キング:ムファサ』では、オスのライオンが群れのリーダーとして威厳を持ちつつも、日中は寝て過ごし、狩りはメスが担当しているように描かれる。しかし、実際のライオン社会はもう少し複雑だという。
「オスは夜間に狩りを行うことが多いのですが、昔のドキュメンタリーでは昼間のシーンしか撮影できなかったため、結果的に『オスは怠け者』という誤解が広まってしまいました。しかし、実際にはオスも狩りに参加します。特に、大型の獲物を仕留める際には、オスの力が必要になることが多いのです」
新宅氏によれば、メスだけで狩りをすることもあれば、オスが加わることもあり、状況に応じて柔軟に役割分担が行われるのだという。
「オスの個体は大きいため、メスの2頭分のパワーがあると考えられています。ですが、メスの体が小さいのは決してデメリットではなく、小回りが効く分、ターゲットを追い込むための最初の狩りはメスが担当することが多いです。また、オスは立派なタテガミがある分、赤道直下のサバンナでは、夏場にマフラーを巻いているような状態。そのため、日の当たる昼間よりも夜に活動する傾向にあります」






















