“超リアル”で話題のディズニー映画『ライオン・キング:ムファサ』動物行動学者はどう評価?

ライオンのオス同士に「友情」はあるのか?
映画では、兄弟のように育ったムファサとタカの友情が描かれるシーンもあるが、実際にはどうなのだろうか。
「ライオンのオスは、ある程度成長したら、群れを出ていかなければなりません。そうして若いオスたちが放浪する期間、一時的に同盟のような形で一緒に行動することがあります。これは、生き延びるための戦略でもあり、“友情”のように捉えられるかもしれません。人間に例えるなら、学生時代の親友のような関係ですね。しかし、最終的にはそれぞれが自分の群れを持つようになり、時にはライバル関係に発展することもあります」
また、『ライオン・キング:ムファサ』は、前作以上に動物たちの表情が豊かに描かれている点も特徴の一つだが、今回の映画ではかなりリアルさを追求しているという。
「ネコ科の動物はイヌ科に比べて表情を作る筋肉が少ないため、基本的に顔の動きは乏しいです。しかし、耳と目と口の3つの要素を使って気持ちを表現することはできます。例えば、耳を伏せるのは「もう逆らえません」の合図だったり、口角を後ろに下げて「イー」という口の形を作るのは「やめてください」という意味だったりします。映画では、こうした微細な動きを研究し、リアルさを追求していると感じました」
ディズニーが追求する動物たちの“らしさ”
さらに、新宅氏はディズニーの動物に対する向き合い方についても称賛している。
「ディズニーのスタッフは、動物の動きや質感を徹底的に研究しています。アニメーターの1人1人が学者のような視点を持っていると感じました。例えば、『ライオン・キング』シリーズでは、毛の生え方や傷の付き方、年齢による体の変化などを細かく観察し、リアルな映像を作り上げています。ライオンの動作一つを取っても、非常に精密に作り込まれていることが分かります」
一方で、ただリアルさを追求するだけではないのが、ディズニーの作品づくりの面白いところだ。
「同じく動物が登場するアニメーションでいうと、『ズートピア』はキャラクターたちが服を着ていたり、二足歩行したり、喋ったりする世界観で、いわゆるリアリティを追求した作品ではありません。ですが、「その動物の“らしさ”を構成するものは何か」ということにこだわった表現をしていたのがディズニーのスゴさだと思いました。ウサギであれば、鼻をクンクンさせる癖があったり、耳の垂れ具合が感情を表していたり。ほとんど哲学的な問いですが、『ウサギらしい』『キツネらしい』と思わせる要素は何なのかということを徹底的に研究しているように感じました」
リアルとフィクションが融合する『ライオン・キング:ムファサ』
『ライオン・キング:ムファサ』は、フィクションでありながらも、実際のライオンの生態を巧みに取り入れた作品だ。ムファサが作り上げた理想郷「プライドランド」も、サバンナのあり方に寄り添ったものになっている。
「『ライオンとほかの動物が一緒に暮らしていたら、食べられてしまうのではないか?』と思うかもしれませんが、実際のサバンナでも、映画のように多様な動物が密集して暮らしています。彼らはライオンがお腹を空かせているかどうかがわかるので、そうでないときは神経質に逃げ回ることはありません。これは、アフリカ独特の気候と、隠れられる場所のない草原地帯ならではの光景と言えます。もちろんフィクションとしてドラマチックに誇張されている部分もありますが、映画を観てからサバンナを訪れることがあれば、想像以上に似たような世界観が広がっていることに感動できると思いますよ」
映画を楽しみつつ、その背景にあるリアルな生態にも目を向けることで、より深い視点で『ライオン・キング:ムファサ』を味わうことができるはずだ。
■公開情報
『ライオン・キング:ムファサ』
全国公開中
監督:バリー・ジェンキンス
字幕版声優:アーロン・ピエール、ケルヴィン・ハリソン・Jr.、ティファニー・ブーン、マッツ・ミケルセン、ドナルド・グローヴァー、ブルー・アイビー・カーター、ビヨンセ・ノウルズ=カーター、ジョン・カニ、セス・ローゲン、ビリー・アイクナー、プレストン・ナイマン、カギソ・レディガ
超実写プレミアム吹替版声優:尾上右近、松田元太(Travis Japan)、MARIA-E、吉原光夫、和音美桜、悠木碧、LiLiCo、賀来賢人、門山葉子、佐藤二朗、亜生(ミキ)、駒谷昌男、渡辺謙
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
原題:Mufasa: The Lion King
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