『呪術廻戦』は“邪道”ではなく“王道”だった? 山田風太郎「忍法帖」シリーズから紐解く、チームバトル漫画の系譜

『呪術廻戦』から辿る、チームバトル漫画の系譜
2024年12月、単行本最終巻発売の前に、渋谷駅周辺に掲示された『呪術廻戦』の巨大看板/撮影・島田一志

 昨年9月、人気絶頂のまま完結した芥見下々の『呪術廻戦』。何かにつけて「邪道」といわれてきた問題作ではあるが、その一方で、「少年ジャンプ」系コミックの「王道」ともいえる、“異能者たちによるチームバトル”を主軸にして描かれた作品でもあった。

 そこで本稿では、あらためて少年漫画における「チームバトル」について考えてみたい。

原点は山田風太郎の「忍法帖」シリーズ

 まず、そのルーツは、漫画ではなく、山田風太郎の伝奇小説群――具体的にいえば、「忍法帖」シリーズにあるといっていいだろう。これは私の持論ではなく、以前から多くの論者(夢枕獏氏など)が指摘していることでもあり、いまではある種の「定説」にもなっている。

 とりわけ注目すべきは、『甲賀忍法帖』(1958〜1959)と、『魔界転生』(『おぼろ忍法帖』を改題/1964〜1965)の2作だろうか。前者では、甲賀と伊賀の2チームに分かれた忍者集団がデスゲームを繰り広げ、後者では、剣豪・柳生十兵衛が、宮本武蔵ら「転生」した伝説の強者(つわもの)たちと闘うことになる。そう、現在の少年漫画の多くに見られる、超能力や特異な技を持った者たちが敵味方に分かれて闘うチームバトル物の基底構造は、「忍法帖」シリーズの段階ですでに完成していたといっても過言ではないのだ。

チームバトル漫画の系譜

 その後、この「忍法帖」シリーズ(おもに『甲賀忍法帖』)の基底構造を漫画に取り入れて成功したのが、横山光輝の『伊賀の影丸』である。山田はこの「転用」を認めていなかったようだが、同作は大ヒット。続く石ノ森章太郎『サイボーグ009』や、手塚治虫『地上最大のロボット』(『鉄腕アトム』の一編)の設定にも大きな影響を与えたものと思われる。

 また、「少年ジャンプ」系の漫画でいえば、1977年2号から連載が始まった『リングにかけろ』(車田正美)が起点になっているだろう。後続の作品では、同じ車田作品である『風魔の小次郎』、『聖闘士星矢』の他、『キン肉マン』(ゆでたまご)、『DRAGON BALL』(鳥山明)、『ジョジョの奇妙な冒険』(荒木飛呂彦)、『幽☆遊☆白書』、『HUNTER×HUNTER』(ともに冨樫義博)、『封神演義』(藤崎竜)、『ONE PIECE』(尾田栄一郎)、『遊☆戯☆王』(高橋和希)、『NARUTO-ナルト-』(岸本斉史)、『BLEACH』(久保帯人)、『僕のヒーローアカデミア』(堀越耕平)、『鬼滅の刃』(吾峠呼世晴)、『チェンソーマン』(藤本タツキ)、『願いのアストロ』(和久井健)、そして、冒頭で触れた『呪術廻戦』といった作品が、多かれ少なかれ「忍法帖」シリーズの基底構造を取り入れて描かれている。また、「異能バトル物」ではないが、『キャプテン翼』(高橋陽一)から『ハイキュー!!』(古舘春一)にいたる歴代のスポーツ漫画のヒット作にも、「忍法帖」的な展開や設定は認められる。

 ただ、現在の「少年ジャンプ」系の漫画家たちには、自分が「忍法帖」シリーズの影響下にあるという意識はほとんどあるまい(たとえば、荒木飛呂彦や冨樫義博の影響のもとに漫画を描いていることだろう)。むろん、それは山田風太郎の功績が廃れたということではなく、それくらい、彼が考えた基底構造がスタンダードになったということの証でもあるのだ。

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