『べらぼう』は色街の現実をどこまで描けるのか? AV監督・カンパニー松尾が同作に期待すること
2025年のNHK大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』の第1回が1月5日、放送された。江戸のメディア王=「蔦重」こと蔦屋重三郎が生まれ育った遊郭の街・吉原が舞台となっており、第1回では蔦重が出世するきっかけとなった吉原の案内書「吉原細見」を生み出すまでの動機が描かれた。
今日のメディア産業につながる最初期の出版の盛り上がりが、“色街”から始まったことを包み隠さず描こうとする『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』を、AV監督で『劇場版BiSキャノンボール』など映画作品も手がけてきたカンパニー松尾氏はどう見たのか。本作の感想と今後の展開への期待を聞いた。
「蔦重が初期に手がけた吉原細見はいわば“風俗ガイドブック”であり、雑誌、パソコン、ケータイと、形を変えて今なお継承されているものです。良きにつけ悪しきにつけ、欲望が渦巻く場所にはエネルギーがあり、さまざまなものが広がったり、栄えたりする一つのきっかけになってきました。特に日本では、エロから多くのカルチャーが生まれてきたのは事実でしょう。『べらぼう』がその辺りをどこまで描き出せるのか、注目したいです」
ネット上では公共放送事業体であるNHKが「色街を描く」ことについて賛否の声が上がっているが、松尾氏は「むしろNHKだからこそできることではないか」と分析する。
「公共放送の<公>という概念には、夜の世界も含まれるはずです。きれいな部分だけでなく、一般に堂々と語られないことも含めて人間ですし、近年の創作は、コンプラを意識しすぎて内容を狭めている面もあるのではないでしょうか。物語のテーマからも、正面から色街を描くことが求める声も少なくないでしょうし、裏を返すと、むしろスポンサーの意向に左右されがちな民放には描くのが難しい題材なのではと思います」
初回では、全裸で打ち捨てられた遊女たちのショッキングな姿が話題となる一方で、オープニングのクレジットには体当たりの役に挑んだ現役のセクシー女優が名を連ねた。
「僕もAV監督でありながら、愛知県が主催する芸術祭『あいちトリエンナーレ』の上映作品を手がけたことがあります。内部ではAV監督を起用するのはどうなのか、という議論もあったそうですが、“AV監督だからNGだというのは職業差別であり、その理由で却下されることはない”と言われました。今回の女優さんたちの起用は、色街を描く上で必然性があったことだと思いますし、しっかりクレジットされていたのは敬意の表れだと感じました」
今後もチャレンジングな内容になりそうな『べらぼう』。松尾氏は最後に、本作への期待を語った。
「大河ドラマですから、基本的には人間の希望や喜びを伝える物語になっていくと思いますが、今後も第1回のようにシビアなこと、裸の仕事をしている人たちの心情や取り巻く状況も並行して描かれると良いなと期待しております。コンプラが叫ばれる世の中ですが、人の人生と色恋は切り離せないものですし、現実の社会は幅が広いものです。偉そうなことは言えませんが、『べらぼう』が社会におおらかさを取り戻すひとつのきっかけになってくれれば嬉しいですね」