【漫画試し読み】最高のヒーローは恥ずかしがり屋の女の子? アニメも話題の『SHY』に心が震える

心が震えるヒーロー漫画『SHY』試し読み

 「ヒーロー」と聞いて多くの人が想像するのは、ピンチの場面で颯爽と現れ、悪を打ち倒す堂々とした姿だろう。しかし、一見頼りなかったとしても、「人を救いたい」という純粋な思いが溢れている姿こそ、勇気が周囲に波及し、世界を変えていくのではないかーー。

 ダイナミックなヒーロー漫画でありながら「心」にフォーカスし、現実に人を救っている名もなきヒーローたちにも思いを馳せることができる作品がある。「週刊少年チャンピオン」で好評連載中で、アニメ第3期が待望されている『SHY』(実樹ぶきみ)だ。本稿では、単独のエピソードとして読んでも質が高い第一話を掲載するとともに、心が震える本作の魅力を伝えたい。

『SHY』第1話(続きを読むには画像をクリック)

 21世紀半ばごろ、地球から戦争がなくなった。それは突如として世界各国にひとりずつ現れた超人的な能力を持つ人々の功績で、その個性的なコスチュームから、やや前時代的な響きを持つ「ヒーロー」と呼ばれるようになった。そんなヒーローたちは、墜落中の飛行機から乗客を救い出したり、強盗団を撃退したり、大規模な慈善事業を行ったりと、日々人を守っている。堂々としてカッコいい、憧れのヒーローたちーーそんななか、日本のヒーローは少し違っていた。

 本作の主人公は、恥ずかしがり屋でヒーローの重たい責務に悩んでいる「シャイ」。その正体は紅葉山輝という女子高生で、クラスメイトとのコミュニケーションにも悩むほど“シャイ”な女の子だ。多くの人がイメージするヒーローとはかけ離れたキャラクターだが、読者はすぐに、彼女が真のヒーローだということに気づくだろう。誰よりも優しく人に寄り添う心を持ち、人を助けるために人一倍の勇気とパワーを発揮することができるからだ。

 第二話以降の詳細なネタバレは控えるが、シャイ=紅葉山輝には、単純に危機に陥った人だけでなく、悪に心を掌握され、暴れ回る人でさえ抱きしめて受け止める「強さ」がある。それは自分の「弱さ」に自覚的で、まさに“シャイ”な性格だからこそ。心も体も強いヒーローでは見落としてしまうかもしれない問題に目を向け、人の「心」を救うことができるのだ。

 作中でも、彼女のことをよく知らない人ーーたとえば、第一話に登場するテレビコメンテーターたちは頼りなく感じたり、ヒーローとしての資質に疑問を持ったりしているが、実際に彼女に救われ、その勇気に触れた人は感化され、自分たちもヒーローのようになっていく。地球上から戦争が消えても、人々の悩みや不安は消えず、さまざまな危険がある世界で、『北風と太陽』の太陽のように、あたたかく善意を広げてくれる存在だと言える。

 そんなシャイを中心に、ヒーローたちは多様な“正義のあり方”を伝えてくれる。たとえば、酒好きで一見陽気だが、孤独を知っており、シャイを気にかけてくれるロシアのヒーロー・スピリッツ。現役の軍人で強いリーダーシップがあり、家族を愛するアメリカのヒーロー・センチュリー。世界的なロックスターで、大規模な慈善事業を展開するイギリスのヒーロー・スターダスト。また、元々はアウトローでありながら、日本の先代ヒーロー・シャインと出会って心を入れ替え、今はヒーローとして活躍する「六輝星(シャイニング・シックス)」もそれぞれ魅力的だ。随所にお国柄も感じさせながら、“推しヒーロー”に悩んでしまう活躍を見せてくれる。

 もっとも、本作は「華やか」で「優しい」だけの物語ではない。「ヴィラン=悪役」に相当する存在が非常に恐ろしく、人の「心」を暴走させる謎の少年・スティグマが率いるアマラリルクという組織は、現代社会の暗く深い問題も考えさせる存在だ。「心に自由を」という美しい響きの標語が、単純な暴力より根源的な恐怖を強調している。「巨悪」と括るのも難しい難敵に対して、ヒーローたちがどう立ち向かっていくのか、緊張感が続く展開も見どころだ。

 「漫画界で一番カッコいいヒーロー」と聞かれれば、答えは人それぞれだろう。一方で、『SHY』を読めば、あなたの「一番好きなヒーロー」は恥ずかしがり屋で不器用な女の子に決定するかも知れない。まずは第一話を読み、彼女から勇気を受け取ってほしい。

▪️『SHY』
https://championcross.jp/series/ddc5fcfeb1b9d

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