1980年代前後のテレビドラマ制作に関する第一級の資料となり得るーー高鳥都『あぶない刑事インタビューズ「核心」』を読む
2024年5月に劇場公開された「帰ってきたあぶない刑事」のBlue-ray&DVDが早くも12月18日に発売された。同作は1986年に放映開始したテレビドラマ「あぶない刑事」の劇場版第8作に当たる。劇場版が現在に至るまで断続的に公開され、最新作でも舘ひろし・柴田恭兵・仲村トオル・浅野温子らメインキャスト4人は変わらず出演している。さらにテレビドラマ版の再放送もCSチャンネルやBSチャンネルで繰り返し流れていることもあって、〈あぶない刑事〉シリーズはいまだに現役感を感じる映像作品といえるだろう。とはいえ、放送から40年近い月日が流れているわけなので、スタッフ・キャストのなかには現場を退いたり、あるいは鬼籍に入った人間も少なからずいる。バブル期からコロナ渦の時代まで続くという類まれなる刑事ドラマの裏側を語れる人々も、気が付けばいなくなってしまう恐れがあるのだ。
そういう意味で「帰ってきたあぶない刑事」の公開タイミングに合わせる形で刊行されたインタビュー集『あぶない刑事インタビューズ「核心」』(立東舎)は、〈あぶない刑事〉シリーズおよび1980年代前後のテレビドラマ制作に関する第一級の資料となり得る本である。インタビュアーと構成を務めた高鳥都は、近年では時代劇の〈必殺〉シリーズに関する著書で注目を集めているライターだ。なかでも『核心』と同じ立東舎から刊行されているインタビュー本シリーズは好評を重ね、これまでに『必殺シリーズ秘史 50年目の告白録』『必殺シリーズ異聞 27人の回想録』『必殺シリーズ始末 最後の大仕事』『必殺シリーズ談義 仕掛けて仕損じなし』と4冊も出版されている。それだけ聞き手として信頼を集めている書き手ということだろう。
『核心』が良いのは出演者、脚本家、監督、撮影、美術、記録、メイクなどなど、〈あぶない刑事〉シリーズに関ったキャスト・スタッフ総勢50名のインタビューを敢行し、600頁以上の大著に仕上げたことだろう。これまでも〈あぶない刑事〉シリーズの証言録やムック本は刊行されているが、ここまで膨大な証言録になったものは無い。そして複数の語り手の内容を重ねることによって、自然と浮かび上がってくるものを掬い取るのが本書における楽しみの1つだ。例えば番組の広報担当を務めた染井将吾が、舘ひろしと柴田恭兵との仕事を振り返った時の話である。
「出だしは怖かったですよ、やっぱり。どっちが主役なんだと張り合っている部分がありましたし、取材でも写真の数でも一方に偏らないようバランスには気をつけました。」
「でも舘さん、柴田さんともに番組の人気が上がるとともに宣伝にも協力していただくようになって……(中略)だから、どんどんやりやすくなりましたね。(中略)その後も『あぶデカ』が映画で復活すると、わたしが担当した番組に舘さん、柴田さんが宣伝で出てくれましたが、やっぱり当時あの番組の一角にいたスタッフとしてよくしていただきました。」
〈あぶない刑事〉シリーズといえば舘が演じるタカと柴田が演じるユージの熱いバディ、という印象が強いが、番組開始当初における舘と柴田の関係はそれほど強固なものではなかったことが、舘と柴田ら本人たちの証言を含め伝わってくる。舘は「恭サマ(筆者注:柴田恭兵のこと)の芝居に対する嫉妬心……そのことを自分のなかで認めたときから、『いや、この柴田恭兵という人の芝居がすごく楽しいんだ。これが〈あぶない刑事〉のスタイルを作っていくんだ』と思えたときから、やっぱり変わってきましたね。」と、柴田に対する思いが変化していったことを語っている。対する柴田も、ある撮影で舘が役者としてのスタンスの違いを率直に打ち明けた時に「すごく素直な人だな、すてきだな」と感じ、「ぼくは絶対この人と一緒に楽しいものができると思ったし、作りたいな」と思ったと述べている。そうした作品を作り上げていく中での役者同士の関係性の変化が、撮影現場ではなく宣伝現場に携わった人間の目からも語られていく。このような複層的な視点を重なりあって一つの像が結ばれる瞬間を読み取るのが、インタビュー本を読む醍醐味だ。