バイデンとオバマが名探偵、クリントン夫妻の合作も……アメリカ大統領にまつわるミステリ小説

■対抗意識? ヒラリークリントンも合作作品を発表

ヒラリー・クリントン (著), ルイーズ・ペニー (著), 吉野弘人 (翻訳) 『ステイト・オブ・テラー』 (小学館)

  さて、そのビル・クリントンの妻で、2016年にドナルド・トランプと大統領の座を争って破れたのが、オバマ政権で国務長官を務めたヒラリー・ロダム・クリントンである。『ステイト・オブ・テラー』(吉野弘人訳、小学館文庫)は、その彼女が、『スリー・パインズ村の不思議な事件』などで知られる作家ルイーズ・ペニーと合作で発表した小説である。夫の『大統領失踪』に対抗意識を燃やしたのかどうかは不明だが、それぞれ大統領と国務長官の経験者である夫と妻が、ともにプロ作家との合作でミステリ小説を発表したというのは驚くべきことである。

 『ステイト・オブ・テラー』の主人公は、新大統領のウィリアムズから国務長官に指名されたエレン・アダムス。敵対関係にあったウィリアムズからの指名には何か裏の意図が隠されていそうである。そんな折り、ロンドンを皮切りにヨーロッパ各地で爆破テロが起こったが、その裏には更なる巨大な陰謀が……。

  ジェットコースター的展開のポリティカル・サスペンス(フーダニットの要素もある)である点は、夫のビルが関わった『大統領失踪』と同様ながら(トランプ政権への反感が滲み出ている点も共通する)、主人公が外交を担当する国務長官だけあって、敵対国も含む海外の要人たちと颯爽と駆け引きを繰り広げるシーンが多い点は、実際に国際外交の修羅場を知るヒラリーらしさを感じさせる。

 『大統領失踪』にせよ『ステイト・オブ・テラー』にせよ、主人公の大統領や国務長官は、政治家として有能であるのみならず、ハリウッド映画の主人公めいた勇敢さを具えた人物として描かれている。そこには、トランプ大統領が恣意的な政治で国内外を混乱に陥れている現状(執筆当時)への不満や憤りから、本来あるべき政治家とはどのような存在かを示す理想像を掲げたかった——という志が読み取れると同時に、そんなキャラクターに自己投影したビルやヒラリーのある種のナルシシズムも感じる。それくらいナルシシズムも強くなければ、合衆国大統領という責任重大で敵が多い職務は務まらないのかも知れない。

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