『キングダム』王騎の死がターニングポイントとなったのは信だけじゃないーー大将軍が変えた二人の名将

※本稿は『キングダム』のネタバレを含みます。未読の方はご注意ください。

 数々の戦いの中で、死線をくぐり抜けてキャラクター達が成長していく漫画、原泰久による『キングダム』。命のやり取りの中で生まれる絆の強さや、託される思いが大切に描かれていることも魅力の一つだ。

 本作を原作にした実写映画「大将軍の帰還」では、コミック13巻〜15巻辺りが制作されており、秦最強と列国から恐れられていた王騎が死んでしまう。王騎に戦のいろはを教わった信にとって、彼の死は胸に深く刻み込まれ、預かった矛と共に大きく成長するきっかけとなる。しかし、王騎の死がターニングポイントとなったのは信だけではない。それは王騎の側近であった騰と、戦場を同じくした蒙武の2名だ。今回は彼らに注目して、その成長を追っていきたい。

 まずは蒙武。彼は自身を中華最強と名乗るほど、自他共に認める武の持ち主だ。今では六大将軍の一角として大軍を導き率いているが、初期の戦い方は酷いものだった。

 自らの武の高さに陶酔し、軍師の指示をまともに聞かず猪突猛進を繰り返していた。その結果、馬陽の戦いでは李牧の策にまんまとはまり、蒙武軍はほぼ壊滅状態に追い込まれてしまう。王騎軍の退却ルートを作るという最低限の働きは見せたものの、蒙武の身勝手さが招いた悲劇といっていいだろう。しかし、この戦いをきっかけに蒙武は将軍として、1人の武将として自らを見つめ直す。

 それが顕著に現れたのは函谷関防衛戦だ。馬陽の戦いでは陣形や策略について一切の興味を見せていなかった蒙武だが、楚国の汗明軍に対し陣形を展開してみせた。蒙武の戦略は策略家の足元にも及ばぬほど拙ないものであったことが登場人物らの表情や言葉から感じ取れるものの、それでも蒙武が武将から将軍へと成長した一幕なのは間違いない。

 さらに、73巻時点で蒙武が最後に登場した戦いである什虎城攻め(60〜61巻)。自分の武の誇示に固執していた当時とは打って変わって、蒙武には守るものや背負うものが生まれていたのだ。心身共にさらなる成長を遂げている蒙武が、今後どのような活躍を見せてくれるのか楽しみでならない。

 続いては騰だ。彼は誰よりも王騎の傍に仕えた副将である。登場時は王騎の指示を忘れたり部下にやらせたりとふざける一面が多かったが、「ファルファル」と音を鳴らす剣撃は戦局を大きく変えるほど驚異的。王騎にとっても手放せない逸材であったことだろう。

 そんな騰は、王騎の死に際、ふざけていた態度とは打って変わって、血が滴るほど拳を握り、唇を噛み締める姿が描かれた。王騎の死後は王騎軍を率いて行方をくらましながらも、中華の情勢を見渡していた描写が描かれている。

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