集英社は大幅増益、講談社堅調も雑誌頼みの出版社は低調ーー今後雑誌はどうやって苦境を脱するべき?
■集英社、大幅増益
集英社が発表した第83期(2023年6月1日~24年5月31日)決算によると、売上高は前年比2.5%減の2043億7500万円となり、当期純利益は前年比29.5%増の206億1700万円となり、純利益が200億円を超えたことがわかった。依然として漫画作品のメディアミックスが好調なうえ、前年に計上された不動産評価減といった特別損失がなかったことが、大幅増益に繋がった。
集英社は『ONE PIECE』を筆頭に人気漫画を多数抱える「週刊少年ジャンプ」という最強の雑誌をもち、近年は青年漫画雑誌である「週刊ヤングジャンプ」の連載作『【推しの子】』が世代を超えてヒット、近年は漫画アプリ「少年ジャンプ+」が『SPY×FAMILY』の連載開始を機に飛躍的にユーザーを増やしている。
集英社は紙、電子、双方で強力なコンテンツを抱えており、漫画単行本の売上も、コンテンツビジネスも堅調である。こうした強みが、今期の大幅増益に結び付いたとみられる。
■雑誌頼みの出版社は苦しい
集英社のライバルの講談社も「週刊少年マガジン」を筆頭に、漫画作品のコンテンツビジネスに活路を見出している。コンテンツビジネスの先駆者であるKADOKAWAもそれに続く。小学館も電子化には乗り遅れていたものの、「週刊少年サンデー」の『葬送のフリーレン』などのヒットで巻き返しを図っており、『ドラえもん』『ポケットモンスター』などの子ども向けの作品は依然高い人気を誇っている。
一方で、ファッション、ライフスタイル誌などの雑誌頼みだった出版社は、軒並み業績を落としていると聞く。特に、長らく広告収入を頼りにしていたファッション誌は、ブランド側が広告の軸足を軒並みネットに移したことによって、深刻な収入源に陥っているほか、SNSを活用するインフルエンサーの台頭も部数に響いているとされる。
今後、漫画をもつ出版社はコンテンツビジネスを積極的に推進するものとみられる。また、集英社や講談社などの最大手は、海外での日本アニメの人気の高まりを受け、海外での事業展開を一層拡大していくと予想され、今後も業績が堅実とみられる。
一方で、雑誌主体でやってきた出版社は、この先10年の間に経営が行き詰まる可能性も指摘されている。現に、コロナ禍のもとで中堅出版社、特に情報誌を強みにしていた出版社の倒産が相次いでいる。
ただ、大人女性をターゲットにした「ハルメク」は依然好調で、定期購読者は44.3万人で全月刊誌No.1(日本ABC協会発行社レポート(2023年7月~12月))を維持していて、セレクトショップを展開するなど雑誌から派生したビジネスでマネタイズするなど好循環が生まれている状況だ。
そのほかバックオフィス支援のクラウド『ジョブカン』を運営する株式会社Donutsは2021年から出版事業を展開。主婦の友社から女性ファッション誌『Ray』の譲受契約を締結。その後『Zipper』や『andGIRL』などの女性誌を発行するなど雑誌というファンダムビジネスでの成長性を目指している。
文芸誌や論壇誌などの文字主体ではない雑誌の強みは、編集者らが媒体特性に合わせた質の高い情報を精査し、最も伝わる写真やデザインで掲載するメディアである。情報が氾濫する社会の中で、何を基準に選ぶのが最適なのか。雑誌編集者には玉石混交の情報から質の高いものを選び抜く編集力がより必要になっているといえるだろう。