『呪術廻戦』宿儺との戦いが決着! “異端の主人公”虎杖は何を成し遂げたのか
宿儺が初めて虎杖の存在を認めた理由
最新話にあたる第268話にて、虎杖は自分が一歩間違えれば宿儺のようになっていたことを認めている。では両者がなぜ正反対の生き方に辿り着いたのかというと、それは“他者とのつながり”を受け入れるかどうかということが大きかった。
そもそも物語の始まりを振り返ると、虎杖はまず祖父の遺言である「オマエは強いから人を助けろ」という言葉から大きな影響を受けていた。そして呪術高専に入った後にもさまざまな出会いがあり、たとえば「幼魚と逆罰」編では吉野順平、「渋谷事変」では七海建人や東堂葵との関わりによって生き方の指針が定められるような描写があった。
実は、こうした他者とのつながりが強調されているのは虎杖だけではない。夏油傑の影響で人生が一変した五条悟、姉・津美紀を幸せにすることを目的に生きていた伏黒恵など、味方サイドの呪術師たちはほとんどが身近な誰かから強い影響を受けている。それこそが“人間の証”だというように。
対して呪霊や呪詛師などの敵は、つながりが希薄な存在として描かれることが多い。他者からの影響によって生き方を決めるのではなく、あくまで自分の内側にある欲望に突き動かされているのだ。その極致が宿儺で、彼にとって他者は自分の欲望を満たすための手段に過ぎない。だからこそ宿儺は誰に対しても共感を示さず、誰からの共感も拒むのだった。
そして虎杖はそんな宿儺の生き方を深く理解しているからこそ、第268話や第265話にて「共に生きる」という道を提案したのではないだろうか。自分が身近な人の影響によって化け物にならずに済んだように、宿儺に寄り添うことによって、“化け物にならない生き方”を与えようとしたのだと思われる。
少しエピソードを遡ると、津美紀に受肉した術師・万が宿儺に「愛」を教えようとして、宿儺がそれを一蹴するという一幕があった。その後、鹿紫雲一との戦いでも、宿儺は「愛など下らん」と断言していた。そして存在が消滅する間際に至っても、信念が揺らぐことはなく、“呪い”として孤独に消えていくことを選んだ。
しかし最後の瞬間に宿儺は、作中で初めて虎杖の名前を呼んでみせた。自分を救おうとする試みを「愚行」として拒絶しつつも、虎杖の存在をとうとう認めたのだ。生き方を変えるまでには至らなかったが、ある意味虎杖は宿儺に影響を及ぼすことに成功したと言えるだろう。
人に影響を与え、人から影響を受けながら生きる呪術師たちと、絶対的な孤独を貫き通した宿儺。そしてそんな宿儺に最後まで寄り添おうとした虎杖……。こうした関係性にこそ、『呪術廻戦』を通して作者・芥見下々が描こうとしたテーマが込められているのではないだろうか。虎杖という“異端の主人公”が生み出されたことには、きっと大きな意味があるはずだ。
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