SF考証とはどんな仕事なのか? 『ゼーガペイン』シリーズでも活躍、高島雄哉インタビュー

高島雄哉が語る、SF考証という仕事

『ホロニック:ガール』は『ゼーガペイン』の設定の内部にいる作品

『ゼーガペイン』のその後の世界を、独自の着想と圧倒的スケールで描く完全オリジナル長編『ホロニック:ガール』

──確かに、「1から作品世界を作る」という点に関しては同じですからね。一方で『ホロニック:ガール』はかなり映像化が難しそうな物語ですが、これに関してはアニメのスタッフとの調整は行っているんでしょうか?

高島:公式企画なので、もちろん執筆前から情報共有して、監督やみなさんと話しつつ、設定と矛盾しないように書いています。ただ『ゼーガペイン』の設定上、時間軸も世界観も大きな自由度があるんです。量子世界というものが非常に重要な作品で、同じ時間を繰り返すけれども、ループの中で情報が壊れたり変化したりして毎回変わっていくという設定がある。なので、『ホロニック:ガール』もちゃんと『ゼーガペイン』の設定の内部にいる作品になっています。好き放題に書いたように見えるかもしれませんが(笑)。

──言われてみれば、読んでいる最中は「これ、どうなっちゃうんだ?」と驚きっぱなしでしたが、全編読むと「『ゼーガペイン』だったな……」という感じでしたね。

高島:『機動戦士ガンダム 水星の魔女』のノベライズでもそうでしたが、そもそも僕の場合、『ゼーガペインSTA』にもがっちり噛んでいるので、「本編のスタッフ」という感覚が強いんですよ。そういう人間が書いたスピンオフなので、本編と違うことはあんまりやりたくない。「好きに書かせてもらいました」みたいな感じではなく、あくまで「あの内容の本編から出発して、作品内の設定を使えばこういうこともできる」という範疇に収まっていると思います。

『エンタングル:ガール』(東京創元社)

──ただ、「サンライズ(当時)の作ったロボットアニメ」というイメージも強かった『ゼーガペイン』なので、そっちのイメージを期待するとギョッとするかもしれませんね。『エンタングル:ガール』もそうでしたが、ホロニックローダーがほぼ出てこないので。

高島:『ゼーガペインADP』の時のポスターもキャラクターだけなんですが、あんまりメカ要素を推しすぎると新しいお客さんが入ってきづらいかもしれないという判断がありまして。なので逆に、『ホロニック:ガール』をきっかけに『ゼーガペイン』シリーズに触れていただければありがたいと思っています。少なくとも、前作の小説である『エンタングル:ガール』を読んでいないとわからないという内容ではありません。『エンタングル:ガール』は『ゼーガペインADP』に対応する作品なので。ただ、世界観的にループするのが前提のシリーズなので、分岐してマルチバース的になっていく中でどちらの作品が先だとか、どのバースが先にあったのかという解釈は、読者の方に委ねたいと思っています。

──どの作品から入っても追いつけるというのは、『ゼーガペイン』シリーズの特徴かもしれませんね。20年近く時間が経過して、2006年の本編を見ていない方も多いでしょうし。

高島:そうですよね。その時点での新作を見てもらえればいいかと思います。それで言えば、『ホロニック:ガール』は全部で12章に分かれているんですが、これはアニメの1クールの話数に合わせてのことなんです。いつか下田監督が新しくアニメにしてくれてもいいんですよ……という目配せですね(笑)。

──ぜひ見てみたいですね……! あと、『ゼーガペインSTA』に関してなのですが、こちらについてもネタバレにならない程度に見どころなどを伺いたいです。

高島:『ゼーガペインADP』は総集編プラス新規カットという作りの中にトリックを入れた作品でしたが、『ゼーガペインSTA』はテレビシリーズの後日談ということで、王道的続編というか、ホロニックローダーも出るし、新しい要素も新しいキャラクターも出ます、という作品です。実は僕もまだ白箱は見てないんですが……。

──『ホロニック:ガール』にもちょっとだけ出てきた、オルタモーダという新勢力が登場するとのことですが。

高島:ネタバレしない程度に説明すると、名前の通り、オルタナティブな、別のバージョンの世界を作ろうという人たちです。ガルズオルムは世界に対して破壊的というか、「壊して新しいものを作ろう」という人たちですが、オルタモーダはもうちょっとクリエイティブな感じというか。

──少々毛色の変わった新勢力なんですね。そして、『ゼーガペインSTA』は、テレビシリーズの後日談ということなんですよね……。

高島:設定的には、テレビシリーズ終了時点でガルズオルムを全滅させたわけじゃないし、舞浜以外にもサーバーは存在しているであろう……というところから始まった企画でもあります。9月以降の舞浜サーバーはどうなるのか、そして他のサーバーは……という話なんですが、それだけでは終わらない仕掛けもあります。

──正直ファンの立場からすると、ちょっと謎を残しながらもきれいに着地したテレビシリーズのエンディングの先を描く、ということになると「大丈夫なのか!?」「期待していいのか!?」「変なことにならないのか!?」という懸念というか、「頼む……!」みたいな気持ちもあるんですが、その辺は大丈夫なんでしょうか……!?

高島:いや、もちろん! もちろん大丈夫です! なんせ僕も、2006年にはリアルタイムで毎週楽しみに見ていた人間ですから! そこに関してはもう大丈夫だと思っていただければ。新しい要素もお馴染みの要素もありつつ、SFとしても最先端のアイデアを投入していますし、ちゃんとエンターテイメントになっていると思います。しっかりホロニックローダーも出てきます。

──そう言っていただけると安心です……! 『ホロニック:ガール』の内容を踏まえて見るのも楽しそうなので、よく知らないという人でもまずは小説から入っていただくのもいいかもしれませんね。

高島:そうですね。『ホロニック:ガール』は、現代の日本SFのひとつの最先端かなと自負しています。もともとアニメ本編がそういう作品ではあるんですが、拡張現実技術や人間という存在をどう拡張していくかなど、最先端の理論をSFに落とし込んでいるんです。この方針は『ゼーガペインSTA』でも共通しています。先ほどから言っていますが、僕は「本編スタッフ」という意識が強いので、『ゼーガペインSTA』をより面白がってもらうためにこの小説を書いたところがあります。「メタレベルでは同じ方向を向いているけど、違うループをやっている」感じと言いますか……。なので、これは公式には言っていないかもしれませんが、「『ゼーガペインSTA』の別ループ」であり、「別の9月1日からの物語」として読んでもらえればと思います。別ループなので、先に読んでも『ゼーガペインSTA』のネタバレにはなりませんし、読んでいただければより『ゼーガペインSTA』を面白く見られるかなと思います。

──『ゼーガペインSTA』がますます楽しみになりました。今日はありがとうございました!

■書籍情報
『ホロニック:ガール』
著者:高島雄哉
価格:880円
発売日:2024年7月26日
出版社:東京創元社

■映画情報
『ゼーガペインSTA』
2024年製作/90分/G/日本
劇場公開日:2024年8月16日
配給:バンダイナムコフィルムワークス
公式サイト:https://zegapain.net/sta/

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