古代オリンピック、プロアスリートがいたのは本当? 商業的側面の高い大会だった説を検証
■古代オリンピックはどうだった?
では古代オリンピックはどうだったのだろうか? 実のところ古代ギリシャでもスポーツにカネはつきものだった。
英語でスポーツ選手を意味する”athlete”はギリシャ語の”athlētēs”を語源とするが、”athlētēs”とは「athlon(賞品)をかけて競う者」を意味する。これが何を意味するかというと、古代のギリシャには各地の競技会を転戦して賞金を得るプロアスリートが存在したということだ。賞金については様々な記録が残っているが、アテナイの競技会の賞金総額は、現代の価値に直すと60万ドルで、短距離種目で優勝した選手にはアンフォラ50杯分のオリーブオイルが授与され、それには4万5,000ドルほどの価値があったとのことだ。オリンピックでは賞金は出ず、勝者に与えれあるのはオリーブの冠のみだったが、それと同時に勝者には名声が与えられ、名声は間接的に経済的利益につながった。
オリンピックの間接的な経済効果も多大だった。古代オリンピックの開催期間は5日に過ぎなかったが、その観戦者数は4万人から6万人に及んだという。紀元前400年当時の古代都市は最大級でもせいぜい10万人規模である。それを考えるとこの数字は脅威だ。古代オリンピックは観戦者を目当てに美人コンテスト、朗読コンテスト、大食い競争などスポーツ以外にも様々なイベントが開催され、行商人や娼婦は観客相手に商売をした。娼婦は競技が開催される5日間の間に1年分の稼ぎを手に入れたそうだ。
加えて、古代オリンピックには公共事業としての側面もあった。古代オリンピックの運営を取り仕切っていたのは開催地の都市国家・エリスの支配者層だが、運営の範疇には競技場の整備も含まれた。競技場の整備にどれほどの金額がかかったのかについてはある程度の記録が残っている。下記、『古代オリンピック 全裸の祭典』より米ドル換算したものを引用する。
ギュムナシオン(訓練施設)の練習用トラック整備…814ドル
スタディオン(スタジアム)の入り口の修理…566ドル
女神デメテルの祭壇の壁の修理…1,298ドル
トラックに折り返しの柱36本を建てる…528ドル
練習用トラックに白い土270ブッシュベルを敷く…1,732.5ドル
意外かもしれないが、オリンピックは古代から商業的な側面が強かったのだ。アニメ『別冊オリンピア・キュクロス』の村長はことあるごとに「カネ、カネ!」と言っていたが、その前提に立つと、この描写は誇張ではあっても決して誤りではない。現代オリンピックは商業主義を時に批判されることがあるが、ある意味では"オリンピックとして"それは正しいのである。