古代オリンピック、プロアスリートがいたのは本当? 商業的側面の高い大会だった説を検証

 

(左から)トニー・ペロテット(著)『古代オリンピック 全裸の祭典』(河出書房)、村上直久(著)『国際情勢でたどるオリンピック史』(平凡社)

■オリンピックとカネ 古代から存在したプロ選手

 発表されているパリ2024オリンピック・パラリンピック競技大会の大会予算は43億8000万ユーロ(約6330億円)らしい。額が大きすぎてなんだかよくわからないが、巨額なことだけはわかる。第1回の近代オリンピックは現代にくらべるともっと小ぢんまりした大会だった。大会期間は10日間にすぎず、行われたのは9競技43種目、参加したのは14か国241人の選手だった。2024パリ大会の競技日数は19日間、32競技329種目が行われ、200か国以上の国、地域、団体から10500人の選手が参加する。

  こうなると問題になるのが運営費である。現代のオリンピックはあまりにもカネがかかるため、生半可な規模の都市では開催できなくなっている。2024年の開催地は当初5都市が立候補していたが、最終的にはロサンゼルスとパリの二都市を残して辞退になった。2024年大会の開催地については、立候補を取り消した都市が他にもいくつかあったようだが、どうやらその多くが経済的な事情で誘致を断念したようだ。2032年大会に至っては立候補そのものがブリスベン一都市のみであり、自動的に決定した。

  実のところ運営費は近代オリンピックにとって常に悩みの種だった。第1回大会は古代オリンピックに敬意を表してアテネ(ギリシャ)での開催が決定したが、そこから開催に至るまですんなりと進んだわけではない。ここまでくれば想像はつくと思うが、カネの問題である。オリンピックの開催の申し出があった前年の1893年、ギリシャの経済は破綻していた。だが、ギリシャのナショナリズムを昂揚させる目的からギリシャ王室、野党の党首は開催に積極的であり、ギリシャの世論も開催に傾いていた。結局、カネの問題はエジプト在住のギリシャ人富豪ゲオルギウス・アヴェンエロフなどの篤志家が現れたことで解決した。

  現在では商業主義的要素も強くなったオリンピックだったが、それから長きにわたってオリンピックは赤字を出すのが当たり前の大会だった。転機になったのが、1984年のロサンゼルス大会である。1976年のモントリオール大会が大赤字になった反省から、運営費用には税金を使わず下記で賄っている。

1.テレビ放映権料
2.スポンサー協賛費
3.入場料収入
4.記念グッズの売り上げ

  加えて聖火リレーのランナーから参加費を徴収した。結局、同大会では税金が1セントも使われなかった。そのことから、1984年のロサンゼルス大会は初の本格的な商業オリンピックと評価されている。大会組織委員長だったピーター・ユベロスは6代目のMLB(メジャーリーグベースボール)コミッショナーも歴任した人物である。さすがにビジネス感覚には優れている。

  春秋に行われることもあった夏季オリンピックだが、このころから真夏に開催することが定着する。理由はやはりカネである。スポーツ大国のアメリカは四季を通じて何かのスポーツイベントがあるが、真夏の時期に関してはMLBのレギュラーシーズンぐらいしかイベントが無い。アメリカの大手放送ネットワークはIOCに莫大は放映権料を支払っているが、オリンピックは他に主だったイベントが無いとの理由から真夏の開催が好ましいと立場を明らかにしている。

  また、1974年にオリンピック憲章から「アマチュア」の規定が取り消され、プロの参加が容認された。オリンピックの商業化も相まって、夏季オリンピックはアマチュアの祭典から華やかなプロの大会へと変貌を遂げていく。

  世界最大のプロバスケットボールリーグ、NBAはバルセロナ大会以降、同リーグのスタープレーヤーをオリンピックに送り込んできた。

  過去の代表と比べても有数の豪華メンバーがそろっている今大会のバスケットボールのアメリカ代表だが、登録メンバー12人の総年俸は約5億4600万ドル(約880億円)だ。掛け値なしのドリームチームだったバルセロナオリンピックのアメリカ代表は別格として、代表メンバーの質には大会ごとにばらつきがあるが、今回のアメリカ代表は昨年のFIBAワールドカップで4位に終わった反省からか、レブロン・ジェームズ、ステフィン・カリー、ジェイソン・テイタム、デビン・ブッカー、カワイ・レナード、アンソニー・デイビス、アンソニー・エドワーズ、ケビン・デュラント、タイリース・ハリバートンと2023-2024シーズンのオールNBAチームに選出された、時価、実績ともに一流のプレーヤーがメンバーに登録されている。

  それ以外のメンバーも全員オールスターゲーム選出経験者である。前回の東京大会でアメリカ代表選手は金メダル1個につき3万7500ドル(約410万円)を報奨金として受け取ったそうだが、天文学レベルの年俸を稼ぐNBAプレーヤーからしたら報奨金などオマケのようなものだろう。彼らのようなプロ選手に他にギャランティーが発生するのかはわからないが、いずれにせよNBAのスタープレーヤーに出場してもらう"経費"としては格安に違いあるまい。他、シェイ・ギルジャス=アレクサンダー(カナダ代表)、ヤニス・アデトクンボ(ギリシャ代表)、ニコラ・ヨキッチ(セルビア代表)、ルディ・ゴベア、ビクター・ウェンバンヤマ(フランス代表)、などバスケットボールの盛んな北米、ヨーロッパの強豪国の代表にもNBAのスタープレーヤーの名前が並んでいる。

  23歳以下+オーバーエイジ枠3人の規定があり、FIFAが定める代表ウィーク期間外でクラブに選手派遣の義務が無いため、ベストメンバーを集めるのが困難なオリンピックのサッカーだが、それでも出場する大物選手はいる。今大会であればフリアン・アルバレス(マンチェスター・シティ/アルゼンチン代表)、アクラフ・ハキミ(パリ・サンジェルマン/モロッコ代表)など数は限られるがヨーロッパのビッググラブでプレーするA代表の主力級が代表に名前を連ねている。

  同じくメジャー競技のテニスでも、ノヴァク・ジョコビッチ(セルビア代表)、イガ・シフィオンテク(ポーランド代表)、ヤニック・シナー(イタリア代表)、アンディ・マリー(イギリス代表)などの大物の名前が並ぶ。ゴルフでは世界ランク1位のスコッティ・シェフラー(アメリカ代表)、老舗経済誌フォーブスが発表した2024年版のスポーツ選手収入ランキングで2位につけたジョン・ラーム(スペイン代表)などこちらもビッグネームが出場する。彼らの年俸を合計したら一体いくらになるのだろうか?  とてつもない数字であることだけは間違いあるまい。

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