井上咲楽×Hana 人気レシピ本作者対談――“仕方なくの自炊”が“楽しい”に変わった瞬間は?

■料理は心を整えてくれるもの

お互いの料理を作っていつか紹介したいと話すなど対談は盛り上がった内容になった

井上:今は祖母の気持ちもよくわかるんですけどね。発酵食品をつくって、自分で使うようになってから、はじめて「自分の味」というものを手に入れられたような気がします。それまではやっぱり、家のごはんといえば母がつくる味でしたが、自炊ならではの滋味深さがある味を、自分なりに探していきたいなと思えるようになりました。そんな自分の味が、今は日々のおまもりのような存在なので、料理本のタイトルにも「おまもりごはん」とつけました。

Hana:おまもり、っていうのはすごくわかる気がします。私は毎日自炊するようになって、メンタルが安定したんです。仕事がけっこうハードで、人間関係に悩むことも多く、気持ちが沈みがちだったのですが、日々料理をしてYouTubeを投稿することで、暮らしが外側から整う感じがあって。投稿することが「いつもの自分」に戻るきっかけの一つになっていったんです。コメントをもらって、一人じゃないって感じられるのもよかった。

井上:HanaさんのYouTubeは、撮りためているものを投稿しているのではなく、毎日撮影したものをリアルタイムで公開しているんですよね? 朝からジムにも通っているって本に書いてあったので、ものすごく大変なんじゃないかと……。

Hana:大変です(笑)。逆に咲楽さんは、ロケで数日おうちに帰れず、自炊できないときも多いと思うのですが、そういうときは台所が恋しくなったりするんですか?

井上:なりますねえ。料理がしたいというよりは、自分の味を食べたい、って感じですけれど。Hanaさんがおっしゃったように、暮らしを整えることでメンタルも安定するというのも確かにあって。料理をする過程で、少しずつ家のなかの暮らしに戻っていくというのかな。とくべつにオンオフをつけるタイプではないんですけれど、仕事とか、外向きの自分が抜けてリセットされていくその時間は大事なんだろうなと思います。

■お互いのレシピ本についての感想は?

――お互いのレシピ本を読まれて、どんな印象を持たれましたか?

Hana:咲楽さんのレシピはつくってみたいものばかりでした。とくにウーロンめし(ウーロン茶の炊き込みごはん)が気になります。独創性があるわけじゃない、っておっしゃっていましたけど、シンプルなのに新しく感じられる料理がたくさんありますよね。なったま春巻(納豆卵焼きの春巻き)もおいしそうだし、豆腐に重曹を入れてとろとろにしていたり。その発想はどこからくるんだろう、って。

井上:「ウーロンめし」は、荻窪のごはんやさんで食べたのがあまりにおいしくて再現したんです。「なったま春巻き」は、もともと実家で食べていた納豆と卵を炒めたやつを春巻きにしたらおいしいんじゃないかと思っただけなのですが、ちゃんと棒状に包めなかったので巾着にしました。でもそれが意外とおいしくて。豆腐に重曹は誰かに聞いたんじゃなかったかなあ。

『井上咲楽のおまもりごはん』に掲載されている料理画像。井上さんならではの独創的な料理が並ぶ

Hana:最初は人から教えられたものかもしれないけれど、ちゃんと自分のものにしているのが素敵だなと思います。先ほどの、オムライスのケチャップに塩こうじを入れるのもそうですが、発想が柔軟なんですよね、きっと。

井上:基本の勉強をしていないからじゃないでしょうか。たぶん、料理に詳しい方からしてみたらセオリーから外れていることも多いと思うんですけど、私にはまずその「こうしなきゃいけない」がわからない(笑)。先ほども言ったように、実験感覚で食材もくみあわせてしまうんです。毎日同じものを食べてもそんなに飽きないかもしれないけど、つくるのは同じものばかりだと飽きてしまうから、いろいろ試したいんですよね。

Hana:わかります。私も、つくることに飽きたらやめてしまうと思うから、あれこれ工夫して献立を考えている感じです。海外のレシピなんかも、しょっちゅう検索しています。レシピ本に載せた「レモンクッキー」は、ポルトガルに住むおばあちゃんから教わったもので。血は繋がっていないけれど本当の家族みたいになかよしな方の直伝です。まだまだおばあちゃんの味にはほど遠いんですけれど、気に入っているお菓子です。

井上:Hanaさんのレシピ本の中で気になったのは、「ブンチャー」。私もつくってみようと思いました。ただ紹介するだけでなく「海外に行きたいときにつくりたい」っていうテーマ設定がいいですよね。他にも「たくさん頑張った日に」とか「早起きした休日に」とかシチュエーションごとにレシピがあるのも好きです。

井上咲楽さんも気になったと話す『1週間2000円 ひとり暮らしごはん』に掲載されているブンチャーのレシピページ

Hana:ありがとうございます! この4章はぜひ掲載したかったんです。ただ節約のために料理をするのではなくて、料理をすること自体を楽しんでほしかったので、そう言っていただけるととてもうれしいです。

井上:毎日の献立も、そういうシチュエーションを想定して決めているんですか?

Hana:毎日のこととなると、もう少しルーティン化しています。まず日曜の朝に、今の自分が食べたいものを書きだすんです。そこから食材に分解して、ほかに何をつくれるだろうかと考えて……。とはいえ、週の後半では食べたくなくなっているかもしれないので、つくりおきの惣菜は少量をいろいろ用意するようにしています。つくるのも食べるのも、飽きないのが大事だと思っています。

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