歌人・枡野浩一、なぜ「タイタン」所属の芸人に?「錦鯉さんの後輩としても、もう一度やり直したかった」

歌人・枡野浩一、なぜタイタンの芸人に? 

 現代語で短歌を詠み、SNSにおける短歌ブームの火付け役となった枡野浩一。2022年に刊行された『毎日のように手紙は来るけれどあなた以外の人からである 枡野浩一全短歌集』(左右社)は、現在9刷重版となり、さらに多くの短歌ファンを生み出している。

 デビューから27年経った今年、爆笑問題が所属する事務所「タイタン」に芸人としての所属を発表。「歌人さん」と名を掲げて新たな道を歩み始めた。その経緯とお笑いへの思い、歌人と芸人という両軸での活動について、これからの意気込みを伺った。

芸人活動をやり直す夢を毎日見続けた

2023年にタイタンの芸人養成所6期生となり、2024年5月からタイタンに所属し活動をスタートさせた枡野浩一(歌人さん)

――枡野さんといえば、以前のインタビューで話を聞いたとおり、短歌ブームの先駆けとなり短歌の世界で長く活躍されていますが、今回どうして芸人として新たなスタートを切ることになったのでしょう?

歌人・枡野浩一デビュー25周年「短歌の世界には不満だらけ。“短歌”に見えない短歌をつくるのが願望だった」

誰にでもわかる簡単な現代語だけで短歌をつくり、「かんたん短歌」とも評された歌を詠む歌人・枡野浩一。学生時代から短歌の世界にのめり…

枡野:僕はもともと芸人としても活動していて、10年前は「Sony Music Artists(以下、ソニー)」という事務所に所属していました。錦鯉さんの後輩だったんです。歌人として行き詰まりを感じていたときに見たソニーのライブが本当に面白くて。いわゆる“お笑い”らしくないお笑いをやっている芸人さんもたくさんいて、それがすごく魅力的で、「自分も短歌で芸人やればいいんじゃないか」って思いついたら目の前が輝きました。

――運命を感じたんですね。

枡野:そのわりには2年間やってうまくいかないまま、結局やめちゃったんですけどね。最後は「詩人歌人と植田マコト」というトリオで、一番大きな舞台だと新宿の末廣亭に出たり、テレビ番組のオーディションでもいいところまでいって可能性を感じていたんですが、いろいろな理由があり、子どもたちもいる公園で号泣して芸人活動を終わりにしました。

 でも前向きにやめたわけじゃなかったので、気が済むまで頑張れなかったという中途半端な感覚がずっと残って。芸人活動をしていた期間にストップしてしまった短歌の活動は再開して、出版界には徐々に仕事が戻っていったけど、お笑いは不本意に終わってしまったという実感がありました。

――短歌の世界に舞い戻ったものの、芸人としては悔いが残ったと。

枡野:ヤクルト1000ってあるじゃないですか。僕も健康のために飲んでいるんですけど、悪夢を見るってネットで話題になっていて……僕の見る夢は、芸人活動をやり直す夢だった。それもひと月くらい毎日見続けて、「そんなにやり直したいんだ」と思いました。テレビで錦鯉さんを見る度に、「錦鯉さん売れてよかったなあ。でも僕も後輩だったのになあ」とか、ときどき思うんです。だけど、さすがにこれは僕の潜在意識が「もう一回やれ」って言ってるんだと思いましたね。なんていうか、啓示って言うと大げさですけど。

ヤクルト1000を飲んで、毎晩芸人活動をやり直す夢を見続けたと話す

――それはすごいエピソードですね。そして今、芸人活動を再開されたわけですが、どのような経緯で「タイタン」に所属されたんですか?

枡野:僕はかなり昔からタイタンライブを見ていて、当時は爆笑問題さんが売れ始めたタイミングで、今のくりぃむしちゅーさんも「海砂利水魚」という名前で出演していました。だから爆笑問題さんはもちろん好きだし、ウエストランドさんのことも以前から知っていて。すごくミーハーなんですけど、ウエストランドさんが優勝した2022年のM-1を見たことがきっかけで、これ以上ないくらい夢中になってしまったんですよね。ずっと彼らの動画を見ていました。

――「タイタン」に縁があったんですね。

枡野:そんな中でタイタンの学校の書道展があることを知って、調べてみたら僕の通っている整骨院から歩いて5分もかからず、ウエストランドさんの書も飾られていたので見に行きました。タイタンの学校が始まったとは聞いていたけど、その現場を実際に確認できた安心感は大きかったですね。そのときすぐに入ろうと思ったわけではないんですが、なんとなくパンフレットを持って帰ったりして。もう一度芸人をやってみようかなと思ったときに、「タイタンの学校一択でしょ!」と思ったんです。

タイタンの学校のパンフレットには太田光代社長の対談も

――いろいろなきっかけとタイミングが重なった結果なんですね。

枡野:一つひとつの出来事は小さいんですが、それが自分の中でちょっとずつ噛み合って物語となってつながりました。2022年に集大成である全短歌集を出して、生活にも少し余裕があったので、自己紹介のPRを書いてメールしたんです。僕の代表作に、<この夢をあきらめるのに必要な「あと一年」を過ごし始める>という短歌があるんですけど、この短歌みたいな気持ちで通いたいと思っています、そう伝えてタイタンの学校に応募しました。

自分の短歌が胸にプリントされたTシャツやトレーナーを着て暮らしている

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