なぜ大人に大人気? 台湾発の絵本『ママはおそらのくもみたい』作者に聞く、悲しみを乗り越えるために必要なこと

■『ママはおそらのくもみたい』はなぜ人気?

『ママはおそらのくもみたい』
ハイゴー・ファントン (著), リン・シャオペイ (イラスト), いとう ひろし (翻訳)『ママはおそらのくもみたい』(ポプラ社)

 台湾で生まれた感動絵本『ママはおそらのくもみたい』(ポプラ社)の作者、ハイゴー・ファントン氏とリン・シャオペイ氏が来日し、東京・神保町のブックハウスカフェでトークショーを開催した。前編ではその採録記事を掲載したが、後編では二人にインタビューを実施した模様をお届けする。カエルくんが亡きママのことを思う同作が生まれた背景にさらに深く迫りながら、大人にとっての絵本の魅力、そして日本の読者へのメッセージについて話をしてもらった。(篠原諄也)

(左から)リン・シャオペイ氏、ハイゴー・ファントン氏

■絵を描く段階でようやく理解できたこと

――絵を担当したリン・シャオペイさんは、物語を初めて読んだ時にどのような感想を持ちましたか。

リン・シャオペイ:ママの「カエルはね、はだがしめってひんやりしているほうがけんこうなのよ!」というセリフが何度も出てくるのが印象的でした。確かにお母さんというのは、子どもに同じことを何度も繰り返し言いますよね。子どものほうでは「もうわかったよ」と思っているかもしれない。とはいえ、なぜそんなにまで繰り返すんだろうと思ったんです。でもそれは絵を描く段階になって、やっと理解することができました。

ハイゴー・ファントン:この言葉は、私が曇りの日に雨が降りそうな空を見た時に思いついた言葉でした。では、なぜ繰り返したのか。大切な人を想う時、私はその人の口ぐせを思い出すからです。例えば、祖母なら、いつも「またうちにおいでね」と言われたことを思い出します。だからカエルくんも、ママの印象的な言葉を何度も繰り返し思い出すんですね。

――ハイゴーさんはリンさんの絵を見た時にどのように思いましたか。

ハイゴー・ファントン:シャオペイさんの絵を見た時に、涙がこぼれました。自分が物語を執筆した段階では、大切な人を喪失したという内面を言葉にして書いていたわけではありませんでした。でもシャオペイさんの絵を見たら、自分が言葉にしなかったものが、全部絵に表れているようで感動しました。

 特に一番最後に見たカエルくんのパパの絵で、涙がとまらなくなりました。これは絵本では最初のページに来る絵なんです。最初のページは読み飛ばしてしまうかもしれませんが、絵本をラストまで読んだ後に改めてこのページに戻ってきてじっくり見てみてください。

■「いつも雲は一緒だよ」とサインをする理由

悲しみに明け暮れるパパのそばに、ママの雲の影が寄り添っている

 この絵は、よく見るとカエルくんのパパのそばに、雲の形のママがいるんです。失った人は遠く離れてしまっていると思うかもしれないけれど、実はこの絵のようにいつもすぐそばにいてくれる。そんなメッセージを伝えたくて、私がこの本にサインするときには「いつも雲は一緒だよ」という一言を添えています。

――リンさんはどのような思いを込めたのでしょうか。

リン・シャオペイ氏

リン・シャオペイ:ママはかけっこをしても、カエルくんやパパを置いたままにして、一番になってしまうような性格です。でも実際はこの絵の通りに、いつもみんなのそばにいて、気にかけてくれているんです。

――カエルくん一家はどういう家族だと思いますか。

ハイゴー・ファントン:何か特別なところがあるわけではない、普通の家庭だと思います。シャオペイさんと一緒にカエルくんの造形を考えた時にも、特殊な家庭になってしまうと、読者が自分とは関係ない物語と捉えてしまうと話し合いました。どんな家庭であっても、死は同じようにやってきます。だから、特別な家族にはしませんでした。

リン・シャオペイ:やっぱり普通の家庭だと思いますが、パパとママはすごく仲が良くて、お互いをよく理解しあっていたんじゃないかな。パパの悲しみのほうが、カエルくんよりももっと深いようにも感じられます。

 学校の宿題で「あなたのママはどんなものににていますか?」と問われたカエルくんは「ママはおそらのくもみたい」だという答えにたどりつきます。空を見上げればいつでも会えていろんな形になって、時にはカエルの好きな雨まで降らしてくれる雲という存在。パパはそれを聞いてやっと前を向けるようになった。そこが素晴らしいところだと思います。

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