立花もも 新刊レビュー アガサ・クリスティー賞出身作家の新刊など、注目ミステリ作品がずらり

南海遊『永劫館超連続殺人事件 魔女はXと死ぬことにした』(星海社)

南海遊『永劫館超連続殺人事件 魔女はXと死ぬことにした』(星海社)

  こちらも超常現象の起きる特殊状況下での殺人事件を描いたミステリ。最後に目が合った人間と共に、死ぬ一日前に戻ることができる。そんな呪いをかけられた〝道連れの魔女〟ことリリィジュディス・エアという名の少女。道連れにされたヒースクリフ・ブラッドベリにとって、それは何よりの幸運だった。死んだはずの妹・コーデリアと再会できたのだから。

  母の危篤を知って、ヒースクリフは三年ぶりに生家の屋敷に帰っていた。死に目には立ち会えなかったが、葬儀や遺産相続の話し合いもある。そして、三年前の父の死に他殺をうたがう声や、母は本当に死んだのかと訝しむ声が聞こえるなか、車いすに乗った盲目の妹が、密室で首を切断されて殺される。その直後、リリィも殺されてしまった。妹を救うため、ヒースクリフはリリィが生き延びるための協力をするのだけれど、そう簡単にはいかず、悲劇はくりかえされ、二人は何度も同じ時をループするはめに。

  特殊設定ながらに本格ミステリの読み心地がありつつ、魔女の登場するファンタジー小説としても、人間ドラマとしてもおもしろく、あっというまに読み終えてしまった。「道連れ」という呪いがいかに残酷なのか、魔女の孤独が語られつつ、ヒースクリフとの信頼関係を築いてくさまもいい……。一気読み必至。

木古おうみ『領怪神犯』(全3巻)(角川文庫) 

木古おうみ『領怪神犯』(全3巻)(角川文庫)

 領怪神犯とは、善とも悪とも言いようがない、人智を越えた人間の手には負えない超常現象又はそれを引き起こすもの。おばけや妖怪というより、神に近いその存在を調査して記録するのが役所の特別調査課に所属する片岸と宮木の仕事だ。神は、祓うことも対峙することもできない。けれどどうにか人間が安全に生きていけるよう、対策を講じようというわけである。

  並外れて巨大だけれど、人体の一部としか思えないものが、毎年一度、空から降ってくる村。死んだとたん、あるはずの内臓が遺体からごっそり消えてしまう村。日本のどこかに、こんなふうに制御のきかない神に支配された地域が、まだいくつも残っているのかもしれないと想像するだけでぞくぞくする。

  1巻は領怪神犯によって妻を奪われた片岸の苦悩を中心に描かれていた。2巻では時を20年前に巻き戻し、そもそもなぜ特別調査課が生まれたのか、その経緯が宮木の意外な過去とともに語られる。最終巻となる第3巻は、これまで対峙してきた巨大な神との、いわば全面戦争。大切な人をとりもどすため、そしてすべての人が生きるためには仕方がないこととはいえ、そもそも神に逆らうこと自体、あってはならないことではないのか。根源的な問いをも抱えながら、生きる希望を模索する人々の姿に胸が衝かれる。民俗学好きにもホラー好きにもたまらない連作短編シリーズ。こればかりは「どこから読んでも大丈夫」とは言えないので、完結したタイミングでぜひ1巻から順を追って楽しんでほしい。

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