立花もも 新刊レビュー 懐かしい名作の新装版からドラマ化作品など今読みたい4作品

 発売されたばかりの新刊小説の中から、ライターの立花ももがおすすめの作品を紹介する本企画。数多く出版された新刊の中から厳選し、今読むべき注目作品を集めました。(編集部)

はやみねかおる『少年名探偵虹北恭助の冒険 新装版』(星海社)

  子どもの頃に本を読むのが好きだったアラフォー以下の人で、はやみねかおるを通過しなかった人はいないんじゃないだろうか。青い鳥文庫で児童文学作家として活躍していた彼が、初めて講談社ノベルスで大人向けにも書いた小説が『少年名探偵虹北恭助の冒険』。23年ぶりの新装版刊行に歓喜した人も多いはず。

  虹北商店街にあるケーキ屋の娘で小学5年生の響子には幼なじみがいる。その名も、虹北恭助。学校に行くことを拒否して、古書店・虹北堂でいつも留守番をしている彼は、髪が長くて色白で、ぱっと見は女の子のよう。学校に行かないのは学ぶことがないからで、大人顔負けの知識とずば抜けた観察力でもって、物事の真理を見抜く魔術師(マジシャン)のようなまなざしをもつ少年。そんな彼が、響子とともに商店街で起きる事件を次々と解決していくシリーズの1作目だ。

  恭助がどんな謎も瞬時に華麗に解き明かすことができるのは、型にとらわれていないから。こうあるべき、こうあるはずだ、という思い込みをすべて取っ払い、物事の本質を見つめることのできる彼が、学校に通うのを苦痛に感じるのは当然である。ふだんはどちらかというと大雑把で遠慮なしに恭助を巻き込む恭子が、本当は恭助と一緒に学校に通いたい、両親を亡くして他人とほとんど関わることのない彼をひとりぼっちにしたくない、という願いを呑み込み、彼の意志を尊重しようとする描写にもグッとくる。謎解きを通じて、人を思いやる気持ちや、常識に縛られない自由な発想を教えてくれるのも、老若男女を虜にするはやみね作品の魅力である。

宮木あや子 『令和ブルガリアヨーグルト』(KADOKAWA)

  ものすごい小説を読んだ、と思った。

  まず、語り手が乳酸菌(ブルガリア菌)。彼なのか彼女なのかわからないその菌が、宿主となる(つまりヨーグルトを食べる)女性と出会うところから始まる。その女性・由寿(ゆず)は、ブルガリアヨーグルトが主力商品の会社・明和に就職し、営業部に配属されたのち、東京本社にある広報部へと異動。乳酸菌と由寿、双方の視点から彼女の成長を描くお仕事小説なのだが、その合間に、作中作が挿入される。中世から近代にかけてのバルカン半島を舞台に、少年に擬人化されたサーモフィルス菌とブルガリア菌のBL小説である。これは由寿がネット(Pixiv)で見つけた同人作品で、その作者が誰かということもやがて物語に絡んでくるのだが……要するに「乳酸菌の視点から菌の生態と歴史を学び、擬人化BL小説でその関係性に萌えつつ、20代OLの成長に胸を打たれる」という小説なのである。……要約するのが難しい! 正直言って、短く紹介するのは不可能なので、とにかく読んでほしい。おもしろいことだけは保証する。

  震災でも大きな役割も担った食品会社で働く人間の矜持、地方で生きる女性の葛藤、自分を大切にするとはどういうことか、さまざまなテーマが多重構造のなかに描かれていて、随所で胸を打たれることも請け合い。読めば「宮木あや子、天才か……?」と震えること間違いなし。1月からは『推しを召し上がれ 広報ガールのまろやかな日々』という題でドラマ化されるので(主演は鞘師里保、そして乳酸菌はなんと橋本さとし!)、あわせてぜひ。

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