注目ロック漫画 髙橋ツトム『ギターショップ・ロージー』楽器と金だけでは買えない大切なもの

■注目ロック漫画の舞台はギターショップ

髙橋ツトム『ギターショップ・ロージー』(小学館)

 ロックの起源については諸説あるが、ひとつだけはっきりしていることがある。それは、エレキギターが発明されなければ、ロックは生まれなかったということだ。

    “史上初のエレキギター”は、1932年、リッケンバッカー社が発売したラップスティールギターだといわれている(注・「実用的な電気的なギター」という意味では、さらに過去の例もある)。

  なお、「エレクトリックギター」の発想の原点は、オーケストラやビッグバンドの他の楽器の音量に負けないために、電気的な仕掛けを施してギターの音を増幅させようというものであり、(もちろん、1930年代には音楽ジャンルとしてのロックは存在しないわけだが)そのある種の反骨精神は極めてロック的だといえるだろう。

  そして、周知のように、その後、ギブソン社とフェンダー社を中心に、エレクトリックギターは本格的に進化・発展していき、その歴史は、そのままロックの歴史と重なっているといっても過言ではないのである。

■金で買えない“心を打つ音”とは

 さて、そんなエレキギターの魅力をテーマにした、すこぶる面白いロック漫画が「ビッグコミック増刊号」にて連載中だ。髙橋ツトムの『ギターショップ・ロージー』である。

  物語の舞台は、タイトル通り、ギターショップの「ロージー」。ただし、そこは通常の楽器店ではなく、ギターの修理を専門に行う店(リペアショップ)だ。

  店にいるのは、通称“アンガス”と弟の“マルコム”。そのニックネームからわかる人にはわかるように、ふたりはAC/DCの大ファンなのだが、ハードロックやヘヴィメタルに限らず、あらゆるロック、いや、あらゆる音楽を心からリスペクトしている。

  物語は基本的には1話完結の読切連作形式であり、毎回、“いわくつきの壊れたギター”を持った客が「ロージー」を訪れ、アンガスとマルコム(のちにヒカコとテルという若者ふたりも加わる)がそれを直す。

  曾祖父の形見のラップスティールギター、亡き夫が大事にしていたG&Lのベース、呪われたグレッチ・ジェット・ファイアーバード、ヘッドだけのギブソンのエレアコ、ボディだけのテレキャスター、熱血ロカビリー青年が持ち込んだグレッチ6120DC、酔いどれブルースマンのシルバートーン、などなど……。

  むろん“壊れたギター”とは、依頼者たちの“壊れた心”のメタファーに他ならず、つまり、アンガスたちは、楽器だけでなく、人々の心をもリペアしているのである。

  ある回で、アンガスはいう。「そもそも楽器やパーツなんて、いくら高かろうと金で買えるモノなんだ。けど、大事なのはそこじゃねぇ。心を打つ音ってのは、喜びや悲しみ… 世界観や気合い… そういった、金で買えないモノが宿ってる」

  そう、結局は、どんなに高価なギターでも、演奏する人間しだいということだろう。

  ギタリストたちは、アンガスのいう「金で買えないモノ」――すなわち、自分の“人生”そのものを、6本の弦に込めて、かき鳴らす。そして、その振動を電気の力で増幅させ、世界に解き放つ。いささか大げさにいわせていただければ、そこには、科学と魔法の差はほとんどないのである。

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